「花粉症の注射」として紹介される治療は6種類あります。「1回で効く注射」として知られるステロイドの筋肉注射は、副作用が長く続くため学会は勧めていません。 通常の治療で症状を十分に抑えられない重症のスギ花粉症には、条件を満たせば「ゾレア®」を保険診療で使えます。原因アレルゲンへの反応を弱める皮下免疫療法もありますが、なみきばしクリニック(渋谷・恵比寿・代官山)で行う花粉症の注射はゾレアのみで、ステロイド注射・皮下免疫療法・神経ブロックは行っていません。
「花粉症の注射はやっていますか?」という質問が、毎年2月から3月に増えます。日本アレルギー学会 アレルギー専門医の立場からすると、現在花粉症の治療として使われる注射と言えば「ゾレア®」です。これは、重症の花粉症患者さんのための薬です。
実際にはほとんどの花粉症の患者さんは、注射による治療を必要としません。
昔に比べて効果が高くて副作用も少ない飲み薬が使用できることと、追加で使用する点鼻薬・点眼薬の効果もとても高いためです。また、舌下免疫療法(シダキュア®)によってスギ花粉に対するアレルギーそのものを改善する治療も行うことができます。
そういった通常の治療をしっかり行っても、症状を十分に抑えられない方がいます。ゾレアは、そうした重症・最重症のスギ花粉症の方を対象とした薬です。
対象は12歳以上で、スギ花粉に対する特異的IgE抗体がクラス3以上の方です。鼻噴霧用ステロイド薬と抗アレルギー薬による治療を受けても、くしゃみ・鼻水・鼻づまりがそろって強い状態が1週間以上続いた重症・最重症の方について、体重と血液中の総IgEの値から投与できるかを判断します。
条件に当てはまる方の中には、「毎年つらいけれど、なんとかやり過ごしてきた」という方が少なくありません。受験や大切な行事を控えているなど、今年はどうしても我慢したくないという事情があるときは、ゾレアを検討する良いきっかけになります。
しかし、インターネットで調べると、ゾレア以外の注射を提供しているクリニックも見つかります。ここでは、「花粉症の注射」にはどのような種類があり、なぜ当院ではゾレアのみを扱っているのか、専門医の視点からお話しします。
当院で受けられる花粉症の注射(ゾレア)と進め方
なみきばしクリニックのアレルギー科では、花粉症の注射としてゾレアだけを行っています。進め方は次のとおりです。
- 初診: これまでの治療(内服薬・点鼻薬・点眼薬)と症状の程度をうかがいます。通常の治療をまだ十分に行っていない方には、まずそちらを整えます。
- 血液検査: スギ花粉に対する特異的 IgE 抗体(クラス3以上が条件)と、血液中の総 IgE の値を調べます。体重とあわせて、ゾレアの対象になるか、投与量と間隔が決まります。
- 投与: 抗ヒスタミン薬に追加して使う薬で、症状が出たときだけ打つ即効性の注射ではありません。スギ花粉が飛び、症状が出はじめた早い段階で開始し、投与量換算表で決まる2週間または4週間の間隔で通院して注射します。花粉の季節が終われば終了します。
ゾレアでも、注射した部位の赤み・腫れ・痛みなどの副作用が起こることがあります。重大な副作用としてアナフィラキシーが報告されており、注射後2時間以降や、長く続けたあとに起こることもあります。注射後に息苦しさ、のどや舌の腫れ、強いめまいなどが出た場合は、直ちに救急を受診してください。
花粉の季節に入ってから検査を始めると開始が遅れるため、昨シーズンつらかった方は1月中のご相談をおすすめします。ご予約はWEB予約から、アレルギー科の診療日はアレルギー科のご案内をご覧ください。
1.ゾレア®(オマリズマブ)
ゾレアは、重症の花粉症に対する治療法として2020年から保険適用となった比較的新しい薬剤です。
と言っても、重症の気管支喘息にはすでに2009年から使用されており、呼吸器内科の医師にとってはすでに馴染み深い使い慣れた薬でした。
「鼻アレルギー診療ガイドライン」でも、重症の季節性アレルギー性鼻炎の患者さんの治療として、ゾレアの使用が推奨されています。
ゾレアは、アレルギー反応の引き金になる抗体(IgE)に直接くっついて、その働きを邪魔することで、つらい症状を強力に抑えます。
ただし、効いているあいだ症状を抑える薬であり、アレルギー体質そのものを治す治療ではありません(国の指針でも「対症療法」と位置づけられています)。
ゾレア治療の最大の利点は、抗アレルギー薬の内服や点鼻薬などでは抑えきれないひどい花粉症の症状を改善してくれることです。
しかし、治療を受けるには、アレルギー反応を引き起こす特定の抗体(IgE)のレベルが一定の範囲内であること、そして、その他の治療方法で効果が不十分であることが条件となります。
投与する量と間隔は、初めて使う前に測る血液中の総IgEの値と体重によって決まり、1回75〜600mgを2週間または4週間ごとに注射します。抗ヒスタミン薬に追加して使う薬で、スギ花粉が飛ぶ時期にだけ行う治療です。症状が出はじめた早い段階で始めるのが望ましいとされ、決められた間隔で投与を続けるかどうかは、症状と花粉の飛散状況をみて判断します。
健康保険の治療ではありますが、通常の治療に比べると高価であることにも注意が必要です。
その効果や安全性とのバランスを考えると、通常の治療だけでは花粉症の症状を十分に軽減できない場合には、まず最初に検討すべき治療です。
当院でも治療の選択肢として、重症の患者さんなどにお勧めしています。
2.皮下免疫療法(アレルゲンの注射)
もうひとつ、スギ花粉のエキスそのものを少しずつ注射して体を慣らしていく「皮下免疫療法」があります。ここまでの薬とは考え方が異なり、症状を抑えるのではなくアレルギー体質そのものの改善を目指す治療で、舌下免疫療法と同じ「アレルゲン免疫療法」の仲間にあたります。
古くから行われてきた治療ですが、はじめは週1〜2回通って少しずつ量を増やし、維持量に達したあとも4週に1回の注射を3年以上続けます。増量期・維持期ともに、注射後は少なくとも30分間、院内で副反応がないか確認します。この通院の負担に加えて、自宅で続けられる舌下免疫療法が使えるようになったことから、花粉症の治療として選ばれる機会は少なくなっています。
日本アレルギー学会の「アレルゲン免疫療法の手引き」でも、皮下免疫療法は舌下免疫療法に比べてアナフィラキシーなど全身の副反応を起こすリスクが高いとされています。当院でも、アレルゲン免疫療法としては舌下免疫療法(シダキュア®)を行っており、皮下免疫療法は取り扱っていません。
ただし、皮下免疫療法にはスギとダニ以外のアレルゲンにも使えるという利点があります(舌下で治療できるのはスギとダニだけです)。必要な方には、対応している医療機関をご紹介します。
3.ステロイドの筋肉注射
ステロイドには強力な抗炎症効果があり、数多くの病気の治療に使用されている大変有用な薬です。「ステロイド」という名前の薬があるわけではなく、いくつもある同じ種類の薬をまとめた言葉です。抗アレルギー薬にもいろいろと種類があるのと同じです。
「一発で効く花粉症の注射」として一部の方に広く知れ渡っているのは、このステロイドの注射(筋肉注射)かも知れません。
花粉症にステロイドの注射を行うと、確かに高い効果が期待できます。
しかし、ステロイドは副作用も多く使用に注意が必要です。ステロイドを使用する必要がある病気の治療を行っている、使い慣れていればいるほど(呼吸器内科や膠原病リウマチ内科の医師)、そのステロイドのリスクを良く知っていると言って良いでしょう。
アレルギー専門医や学会でステロイド注射の使用をお勧めしないのは、得られる効果と副作用のリスクのバランスが悪い、という理由です。
ステロイドの副作用は全身のあらゆる臓器に起こる可能性がありますが、使用するステロイドの種類や量、期間によっても違いがあります。花粉症で「1回で長く効く」と紹介される注射は、持続性のステロイド製剤を筋肉内に投与するものです。薬が徐々に吸収されて長く作用するため「長く効果がある」反面、投与後に減量や中止ができず、副作用が出ても薬の作用が続いてしまう、という非常に大きな問題があります。具体的には、血糖値の上昇、副腎皮質機能の低下、皮膚障害、筋萎縮や瘢痕の形成、月経異常などが問題になります。
ステロイドの飲み薬は短い期間だけ使用されることもないわけではありませんが、やはり使い慣れた医師によって、そのリスクが充分に説明された上で投与されるべきです。
ステロイドを長く使わないと抑えられないほどの症状であれば、適応の条件を満たす場合はゾレアなどを検討します。
日本アレルギー学会や「鼻アレルギー診療ガイドライン」では、花粉症に対してのステロイド注射の一般的な使用は推奨していません。
ステロイドの注射を考える前に、まずはそれ以外の治療が十分に行われているか、リスクを上回るだけのメリットがあるか、しっかりと確認しましょう。
4.ノイロトロピン®
ノイロトロピンは、ワクシニアウイルスというウイルスを接種したウサギの炎症を起こした皮膚組織から抽出し精製された薬剤です。
50年以上前に発売が開始された歴史ある薬剤で、主に腰痛や神経痛などに使用されておりましたが、アレルギー性鼻炎にも保険適用あります。
アレルギー性鼻炎への承認があり、効果を示した比較試験もあります。ただし、現在の標準治療との比較や、スギ花粉症に対する効果を判断する根拠には限界があるため、当院では採用していません。
効果が高く副作用が少ない最近の抗アレルギー薬や点鼻薬などがない時代には一定の有用性がありましたが、現在の役割は限定的であると言えます。
5.ヒスタグロビン®
ヒスタグロビンは、免疫グロブリンという献血によって得られる人の血液から精製・濃縮されるタンパク質に、ヒスタミンというアレルギー症状を起こす化学物質を加えた薬剤です。
喘息などのアレルギー疾患の治療薬として開発され、60年以上前にフランスで発売が開始され、日本でも1967年に発売されました。
免疫グロブリンはいくつかの自己免疫疾患の治療薬や重症感染症に使用されます。血液製剤(献血の血液から作られる薬剤)であることから、慎重に使用することが求められます。 なぜ効果があるのかがはっきり分かっておらず、効果が出るまである程度の時間がかかること、何回投与すれば効果がでるのかも個人差が大きいため使用してみないとわかりません。
ノイロトロピンと同じく、アレルギー性鼻炎への承認があり、効果を示した比較試験もあります。ただし、現在の標準治療との比較や、スギ花粉症に対する効果を判断する根拠には限界があり、生物由来製剤であることにも注意が必要なため、当院では採用していません。良い抗アレルギー薬や点鼻薬がある現在では有用性は限定的と言えます。
保険適用の治療となっていますが、血液を原料とする「特定生物由来製品」であるため、感染症が伝わるリスクを完全には否定できないことについて説明を受け、理解したうえで治療を受けることが求められています。書面で同意を確認するかどうかは医療機関によって異なります。また、使用の記録は20年間保存することが定められています。
6.星状神経節ブロック
花粉症に対する注射の治療としてもう一つ、最近SNSでも見聞きするようになったのが星状神経節ブロックによる治療です。
「神経ブロック」とは神経やその周囲に局所麻酔薬などを投与することによって、その神経が関与する場所の痛みを一時的に緩和する治療法です。
星状神経節ブロックは、下位頚椎横突起前面(首の骨のうち下の方にあるものの左右に飛び出ている部分の前面)に局所麻酔を行うことで、星状神経節や周囲の交感神経の働きを調節(遮断)して、主に頭や首・顔面・腕の痛みをやわらげることができる神経ブロックです。
神経ブロック自体は、大きな病院のペインクリニック科や専門のペインクリニックで行われる特殊な治療で、専門的な技術が必要です。
痛みを軽減させるという本来の目的で星状神経節ブロックを行った際に、花粉症症状も軽減したという報告が集まり、一部の医療機関で花粉症の治療として行われるようになりました。
ただし、花粉症治療としての効果や合併症を検証した大規模な臨床試験はまだありません。また、花粉症に対する星状神経節ブロックは保険診療の対象になっておらず、自由診療で行われています。自由診療の価格は医療機関によって異なり、インターネットの情報によると1回あたり5000円程度から数万円まで幅があるようです。
注射は首の前面から行い、近年では安全のため超音波(エコー)ガイド下に位置を確認しながら行うことが一般的です。「ペインクリニック治療指針」によると、注射による出血や血腫による気道閉塞や、局所麻酔薬の硬膜外腔・くも膜下注入による呼吸・循環の抑制などの合併症に対しての緊急の対処が可能な体制で行うことが必要であり、救急蘇生ができる専門医が行うべき治療であると記載されています。
SNSでは劇的な効果を報告する投稿などがありますが、そこまでの効果はなかったという投稿もあり、治療効果についてはさらなる報告が必要でしょう。
日本ペインクリニック学会の「ペインクリニック治療指針」改訂第6版(2019年)には、保険収載上は認められていないとしたうえで「花粉症の急性期には連日、左右交互に片側10回ずつ行う」という記載があり、1回で終わらず複数回の治療が必要になることも多いようです(最新版は2023年の改訂第7版ですが、本文が会員限定のため、ここでは学会が公開している第6版を参照しています。第6版は学会自身が旧版と注記しており、現在の標準的な治療回数を示すものではありません)。保険診療で行われる治療が十分に行われた上で検討される選択肢という立ち位置であると考えられます。
アレルギー専門医監修 花粉症の基本と治療の選び方 いつから・何科・検査・飲み薬と点鼻薬・舌下免疫療法・注射まで、花粉症のギモンを1ページにまとめています。 花粉症のページへ →まとめ
「花粉症の注射による治療」について解説しました。
日本アレルギー学会 アレルギー専門医の立場から、なぜ「ゾレア」以外の注射を当院では行っていないのか、ご理解いただけたと思います。
まずは、抗アレルギー薬・点鼻薬・点眼薬による治療を十分に行うことが大切です。
そのうえで、アレルギー体質そのものの改善を目指したい方には舌下免疫療法という選択肢があります。花粉が飛んでいない時期に始めて、数年かけて毎日続ける治療です。
通常の治療では症状を抑えきれない重症の方には、条件を満たせばゾレアもご提案できます。どちらもご相談をお受けしていますので、いつでもお声がけください。
参考
- 鼻アレルギー診療ガイドライン ─通年性鼻炎と花粉症─ 2024年版(改訂第10版)
- アレルゲン免疫療法の手引き2025(日本アレルギー学会)
- ゾレア皮下注 電子添文(PMDA)
- オマリズマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(季節性アレルギー性鼻炎)(厚生労働省)
- ヒスタグロビン皮下注用 電子添文(PMDA)
- シダキュアスギ花粉舌下錠 添付文書(PMDA)
- 治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉 添付文書(PMDA)
- ペインクリニック治療指針 改訂第6版(日本ペインクリニック学会、2019年)Ⅳ-F-22 アレルギー性鼻炎 p.200
- アレルギーポータル(日本アレルギー学会)
- 東京都アレルギー情報navi「アレルギー性鼻炎・花粉症 Q&A」(東京都保健医療局)
よくある質問
1回打てば花粉症の季節が楽になる注射はありますか?
「1回で効く注射」として知られているのはステロイドの筋肉注射です。効果はありますが、薬が長く体にとどまるため副作用も長く続き、日本アレルギー学会や鼻アレルギー診療ガイドラインは花粉症への一般的な使用を勧めていません。当院では行っていません。
花粉症の注射は保険が使えますか?
ゾレアは重症のスギ花粉症に対して2020年から保険適用です。皮下免疫療法・ノイロトロピン・ヒスタグロビンも保険診療ですが、星状神経節ブロックは花粉症に対しては自由診療です。保険診療でも、ゾレアは通常の内服薬や点鼻薬に比べて高価です。
ゾレアは誰でも受けられますか?
12歳以上で、スギ花粉に対する特異的IgE抗体がクラス3以上の方が対象です。鼻噴霧用ステロイド薬と抗アレルギー薬で治療しても強い症状が1週間以上続いた重症・最重症の方について、体重と血液中の総IgEの値から投与できるかを判断します。初めに血液検査で確かめます。
ゾレアはいつから、どのくらいの間隔で打ちますか?
抗ヒスタミン薬に追加して使う薬で、スギ花粉が飛ぶ時期にだけ行います。症状が出はじめた早い段階で始めるのが望ましいとされ、投与量と間隔は総IgEの値と体重で決まり、2週間または4週間ごとに注射します。症状が出たときだけ打つ即効性の注射ではありません。
注射のほかに、花粉症の体質そのものを変える治療はありますか?
舌下免疫療法(シダキュア)です。スギ花粉のエキスを毎日舌の下に含んで体を慣らす治療で、花粉が飛んでいない時期に始めて数年続けます。当院でも行っています。皮下免疫療法は同じ考え方の注射ですが、通院の負担と副反応の点から当院では扱っていません。
