「夜、布団に入るとすねがむずむずしてくる」「掻くと白い粉が落ちる」「去年の冬もこうだった」──秋が深まるころに決まって出てくるこのかゆみは、皮脂欠乏症(ひしけつぼうしょう:乾皮症とも呼ばれる、皮膚が乾いた状態)によるものかもしれません。掻き続けると湿疹に変わりますが、その手前で止められる症状です。
このページでは、なみきばしクリニックの皮膚科担当医(日本皮膚科学会 皮膚科専門医)が、冬にかゆくなる仕組みと、保湿剤の種類・塗る量とタイミング、入浴や暖房の工夫、受診の目安をご説明します。ご相談はWeb予約からどうぞ。なお、脂っぽいフケや小鼻のまわりの赤みは乾燥ではなく脂漏性皮膚炎のことがあり、そちらはリンク先にまとめてあります。ここでは乾燥だけを扱います。
Q. 冬になると体がかゆくなるのはなぜですか?
皮膚の水分を保つ仕組みが、外気の乾燥と暖房による低い湿度に追いつかなくなるからです。冬に目立つこの状態は冬期乾皮症(とうきかんぴしょう)と呼ばれます。
皮膚は2つの仕組みで乾燥から守られています。ひとつは、角層(かくそう:皮膚のいちばん外側の層)の細胞のすきまを埋める脂と、水を抱えこむ天然保湿因子による水分保持。もうひとつは、皮脂と汗が混ざった薄い膜が表面を覆う働きです。どちらかが崩れると水分が逃げ、粉をふいてかゆみが出ます。
皮膚が乾く要因は3つに整理されています。
- 生理的要因:年齢による皮膚の働きの変化
- 環境要因:外気の乾燥や室内の空調による低い湿度、長すぎる入浴、脱脂力の強い洗浄料やこすり洗い
- 非生理的要因:ほかの皮膚の病気や全身の病気、抗がん剤・放射線治療に伴うもの
冬は2つ目がまとめて重なります。外気が乾き、暖房を入れた室内では相対湿度がさらに下がる。そこへ「熱い湯に長く浸かる」「体を強く洗う」が加わると、表面を覆う脂が落ちて水分の逃げ道が開きます。
Q. すねから始まるのはなぜですか?
皮膚の表面にある脂の量は、顔や体幹に比べて手足で少なく、年齢とともに減っていくからです。そのため乾燥は両すねの前側から始まることが多く、皮脂の多い顔やわきの下には出にくいという偏りがあります。
年齢による乾燥が出やすいのは両下肢の伸側、つまりすねの側で、背中や腕に広がることもあります。一方、皮脂や汗の多い顔や、わきの下・そけい部のようなこすれ合う部分では起こりにくいことが分かっています。「顔はテカるのに脚だけカサカサする」というちぐはぐな状態は、部位ごとの脂の量の差で説明がつきます。
表面の脂の量は加齢とともに減り、男性より女性で少ないことも分かっています。乾燥は高齢の方でとくに多く、7割以上に皮膚の乾燥が認められたという報告があります。冬に急にかゆくなるのは、年齢による変化に季節の条件が上乗せされるためです。
Q. 掻いているうちに湿疹になることがあるのですか?
あります。乾いた皮膚を掻き続けると炎症が起こり、皮脂欠乏性湿疹(ひしけつぼうせいしっしん)に変わります。湿疹が広がり、硬貨のような円形の赤い湿疹になることもあり、これを貨幣状湿疹(かへいじょうしっしん)と呼びます。
乾燥そのものにも段階があります。はじめは細かい鱗屑(りんせつ:はがれた角層が粉やうろこのように見えるもの)が出る程度ですが、進むと表面がざらつき、鱗屑が大きくなります。さらに進むと、さざ波や菱形の模様に見える浅い亀裂ができ、軽い痛みを伴います。
ここに掻く動作が繰り返し加わると炎症が始まります。かゆいから掻く、掻くとバリアが壊れてかゆみが増す、という循環に入ると、乾燥は湿疹へ移ります。赤みやぶつぶつが加わると保湿剤だけでは炎症が治まらず、炎症を抑える塗り薬を併用します。塗り薬の強さや量、やめ方はステロイドの塗り薬のページに、「湿疹」という総称の中身は湿疹(皮膚炎)のページにまとめてあります。
Q. 保湿剤はどれを選べばよいですか?
保湿剤は、水を抱えこむ成分で角層の水分そのものを増やすタイプと、皮膚を覆って蒸発を防ぐタイプに分かれます。保湿剤にはさまざまな成分や剤形があり、すべての製品について一律の優劣を決められるだけの比較データはありません。皮膚の状態に合い、無理なく続けられるものを選ぶのが実際的です。
処方する保湿剤は働き方で2つに分かれます。
- 水分を増やすタイプ:ヘパリン類似物質や尿素を含むもの。角層の水分を直接増やします。覆うタイプより角層の水分を増やす作用が強いとされ、剤形の種類も豊富です。ただし、実際の選択では刺激性、使用感、塗る部位なども考慮します。尿素製剤は、ひび割れや傷、赤く炎症を起こした部分では刺激や痛みが出ることがあります。ヘパリン類似物質は、出血性の病気がある方などには使用できない場合があります。症状や持病に応じて医師・薬剤師にご相談ください
- 覆って守るタイプ:白色ワセリンや亜鉛華軟膏など。油の膜で蒸発を防ぎます。ベタつきがあり、続けにくいという声もあります
剤形は軟膏・クリーム・ローション・泡状のフォームがあり、塗る面積や季節、使い心地で選びます。広い範囲を毎日塗るので、伸ばしやすさが継続を左右します。
市販品との線引きも、はっきりさせておくとよいところです。細かい鱗屑やざらつきだけでかゆみもない段階なら、市販の保湿剤(一般用医薬品・医薬部外品・化粧品)と生活の工夫で足ります。鱗屑がはっきりして掻いた跡がある場合は、かゆみが強くなくても受診し、医療用保湿剤による治療を検討します。市販品にはセラミドのように医療用にはない成分もありますが、市販品どうしの効果を比べたデータは乏しく、効果の順位では選べません。
なお医療用の保湿剤は乾燥の治療として処方するもので、美容目的では処方しません。
Q. いつ、どのくらい塗ればよいですか?
1日2回、そのうち1回は入浴のあとに、少しテカテカするくらいの量を塗ります。量の目安はFTU(フィンガーチップユニット)で、口径5ミリのチューブから人差し指の先端から第1関節まで出した量(約0.5g)が1FTU、これで成人の手のひら2枚分を塗れます。
外来で最も多いのは、量が足りない塗り方です。目安は次のとおりで、思っているより多く使います。
- 片方の脚(太ももからくるぶしまで):6FTU(約3g)
- 片足(足首から先):2FTU(約1g)
- 片方の腕:3FTU(約1.5g)
- 背中:7FTU(約3.5g)
ローションなら、手のひらに1円玉ほどの大きさで約0.6gです。塗り終えたときに皮膚が少しテカる程度が目標です。1日1回より2回のほうが保湿の効果が高く、朝と入浴後の2回が続けやすい形になります。
タイミングは、風呂上がりすぐでなければ効かない、ということはありません。入浴の1分後に塗った場合と1時間後で、角層の水分量に差はなかったと報告されています。生活のなかで塗れる時間に決めるほうが、結局は続きます。入浴後は水分が逃げやすいので、入浴後の無理なく続けられる時間に塗ってください。
炎症を抑える塗り薬と保湿剤を自己判断で混ぜると、濃度や均一性、安定性が変わる可能性があります。別々に塗るか混合して使うかは、医師・薬剤師の指示に従ってください。炎症が治まったあとも保湿は続けてください。保湿剤は乾燥を改善する対症療法で、乾燥する季節や原因が続いている間に中止すると再発しやすくなります。
Q. お風呂や部屋の暖房で気をつけることはありますか?
湯温は38〜40℃を目安にし、42℃以上の熱い湯は避けます。ナイロンタオルでこすらず、石鹸はよく泡立てて洗い、乾燥の強い部分では使う量を最小限にします。暖房を使う部屋には加湿を足してください。
- 湯温:42℃以上の湯では、皮脂と天然保湿因子が溶け出し、かゆみも誘発されます。バリアが回復しやすい温度は38〜40℃とされています
- ナイロンタオル・ブラシ:硬い素材でこする洗い方は、角層から逃げる水分を増やして乾燥を助長します。使わないのが原則です
- 石鹸・洗浄剤:主成分は界面活性剤で、使いすぎやすすぎ残しは乾燥を悪くします。よく泡立てて泡でやさしく洗い、すねなど乾燥の強い部分は湯で流すだけでも足ります。皮脂はぬるめの湯である程度落ちます
- 暖房と加湿:冬の暖房で室内の相対湿度は下がります。加湿器などで補ってください
- 衣類:乾燥した皮膚では、羊毛やごわごわした素材、髪の先が首に当たるといった軽い刺激でもかゆみが出ます。肌に直接当たる素材を替えるだけで楽になることがあります
- 爪:短く切っておくと、掻いたときの傷が浅くて済みます。夜中に掻いてしまうなら、就寝時の長袖や手袋も助けになります
水仕事が多く手だけが荒れて治らない場合は、乾燥とは別に手湿疹を考えます。手に限った対処は手湿疹(主婦湿疹)のページをご覧ください。
Q. 皮膚科を受診したほうがよいのはどんなときですか?
市販の保湿剤と生活の工夫を続けてもかゆみと粉ふきが引かないとき、赤みやぶつぶつが出て湿疹に変わってきたとき、掻いて眠れないとき、亀裂ができて痛むときは、皮膚科の受診をお勧めします。
乾燥は皮膚だけの問題とは限りません。糖尿病や慢性の腎臓病、一部の抗がん剤や放射線治療でも皮膚は乾きます。年齢や季節では説明しにくい乾燥や、急に体じゅうへ広がった乾燥では、問診や診察を行い、必要に応じて血液検査などで背景の病気を確認します。
まれですが、保湿剤そのものにかぶれて、悪化したように見えることもあります。塗り始めてから赤みが強くなった場合は、同じものを続ける前にご相談ください。乾燥によるものか別の病気かで迷うときは、かゆい発疹の見分け方のページもご覧ください。
保湿剤への反応はよく、経過はおおむね良好です。長引く場合には、塗る量が少ない、途中でやめている、洗い方や室内環境が変わっていないといった点をまず見直します。それでも改善しない場合は、別の皮膚の病気や全身の病気がないかを確認します。
よくあるご相談
以下は、複数の診療経験をもとに再構成した典型的な例です。
当院の皮膚科外来では、「毎年、寒くなるころからすねがかゆくなり、市販のクリームを塗っているが追いつかない」というご相談を伺うことがあります。問診では、いつからどこに出るか、1日何回塗っているか、湯船の温度と洗い方をうかがいます。伺うと、湯温が42℃を超え、ナイロンタオルで毎日すねまでこすり、保湿は朝の1回だけ、という組み合わせが少なくありません。診察では両すねに細かい鱗屑と掻いた跡があり、赤みやぶつぶつはまだ出ていない状態でした。お伝えしたのは、湯温を下げてナイロンタオルをやめること、片脚に6FTUという量の目安、入浴後にもう1回足して1日2回にすること、の3点です。赤みやぶつぶつが出てきたら炎症を抑える塗り薬を足す方針としました。
当院での診療
当院では、日本皮膚科学会 皮膚科専門医が、乾燥のままなのか湿疹に変わっているのかを診たうえで、保湿剤の種類と量、生活のどこを変えるかを一緒に決めています。皮膚科の診療日は火曜・木曜・第1/第3土曜です(皮膚科のご案内)。ご予約はWeb予約からどうぞ。
まとめ
- 冬の乾燥は、外気の乾燥と暖房による低い湿度が重なって起こります。皮脂の少ない両すねから始まるのが典型です
- 掻き続けると皮脂欠乏性湿疹に変わり、広がると貨幣状湿疹になります。赤みやぶつぶつが出たら保湿剤だけでは治まりません
- すべての保湿剤に一律の優劣をつけられる比較データはありません。皮膚の状態に合い、続けられるものを選びます
- 量の目安は1FTU(約0.5g)が手のひら2枚分、片脚で6FTUです。1日2回、うち1回は入浴後に塗ります
- 湯温は38〜40℃、ナイロンタオルは使わず、暖房の部屋は加湿します。やめれば戻るため、冬のあいだ続けるのが前提です
参考文献
- 皮脂欠乏症診療の手引き 2021(日本皮膚科学会, 2021)
- アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日本皮膚科学会・日本アレルギー学会, 2024)(湯温・洗浄剤の推奨はアトピー性皮膚炎を対象としたもの)
- ヘパリン類似物質油性クリーム・尿素クリーム20% 電子添文(PMDA)
