「煙が出ないから紙巻きタバコより安全そう」「健康のことを考えて加熱式に替えた」──こんなふうに感じている方は多いです。ただ実は、紙巻きと比べてどれくらい害が減るのかは限定的だと分かってきており、長期的な健康への影響を見極める材料もまだ十分には揃っていません。加熱式で禁煙できたという結果も、研究の上では確認されていないのが現状です。
このページでは、加熱式タバコと電子タバコ(VAPE)の違い、紙巻きと比べた影響、禁煙ツールとしての位置づけ、そして周りの人への受動曝露のリスクをやさしくご説明します。ニコチン依存についてはニコチン依存症のページ、紙巻きタバコの健康被害全般はタバコによる健康被害のページ、治療は禁煙外来のページにまとめています。ご相談はWeb予約からどうぞ。
加熱式タバコとはどんな製品ですか?
加熱式タバコ(HTP:Heated Tobacco Product)は、タバコ葉を燃やさずに加熱してニコチンを含むエアロゾル(細かな霧状の粒子)を出す製品のことです。日本では IQOS・glo・Ploom などが広く使われています。
国内で流通している製品は、おおむね200〜350℃でタバコ葉を加熱します。加熱のしかたは製品や世代によって異なり、スティックに金属を差し込むもの、周囲のヒーターで加熱するもの、電磁誘導で加熱するもの(IQOS ILUMA など)があります。同じブランドでも機種が変わると方式や温度が変わるため、「このブランドは何℃」と一括りにはできません。
紙巻きタバコはタバコ葉を直接燃やし、その温度は500〜950℃に達します。加熱式はここまで上がらないため、煙ではなくエアロゾルが出るしくみです。ただしニコチンは150℃以上で放出されるため、吸い込むニコチンの量は紙巻きタバコと同等とされています。
よく混同されるのが電子タバコ(VAPE)ですが、これはタバコ葉ではなく、ニコチンやフレーバーを含む液体(リキッド)を加熱して蒸気を出す別のカテゴリーの製品です。日本ではニコチン入りリキッドの販売が規制されているため、市販品の多くは「ニコチンなしのフレーバー製品」になっています。
日本は世界でもっとも加熱式タバコが普及した国とされていて、2025年度には、たばこ全体の販売数量のうち約45%を加熱式タバコが占めるまでになりました。使っている方のほとんどは現在または過去に紙巻きを吸っていた方で、きっかけは「禁煙のため」と「本数を減らすため」がほぼ同じくらいです。
紙巻きタバコより害は少ないのですか?
先に結論をお伝えすると、紙巻きと比べれば有害物質の取り込みは減るものの、吸わない人と比べればやはりリスクはあり、短期的な毒性は紙巻きと変わらないという報告もあります。がんやCOPDの発症を直接調べた長期研究は、まだ十分にありません。一方で、血圧・心拍数・血管のはたらき・炎症などへの悪影響を示す研究は数多く、結果の一致性が高いと国内の研究班も評価しています。
下の表は、体内に取り込まれる有害物質の量や、短期間で測れる検査値の比較です。がん・心血管の病気・呼吸器の病気が実際に減るかどうかを示したものではありません。がんやCOPDの発症を直接調べた長期研究がまだ十分にないため、この表の「低下」をそのまま「病気が減る」と読み替えることはできません。
比較項目 | 紙巻きタバコと比べた加熱式タバコ | 吸わない人と比べた加熱式タバコ |
|---|---|---|
ニコチン・タールなどの有害物質 | ニコチンは紙巻きタバコと同等。ニコチン以外の一部の物質は、完全に切り替えた短期試験で低下 | やはり取り込みはある |
発がん性物質(NNAL、PAH代謝物など) | 完全に切り替えた短期試験で、12種類の指標が低下(併用時や長期のがんリスク低下を示すものではない) | 吸わない人よりは高い |
心拍数・血圧・血管の内側(内皮)のはたらきへの急な影響 | 紙巻きと同じくらいとの報告 | 上がる傾向あり |
呼吸機能 | 大きな差は示されていない | 吸わない人より低い |
酸化ストレス・炎症・DNA損傷のマーカー | 低下 | 吸わない人より高い |
細胞毒性(気道の細胞での研究) | 低い | 高い(電子タバコより高いとの報告) |
ここで大事なのは、「取り込む量が減ること」と「健康被害が減ること」は別の話だということです。心拍数・血圧・血管の内側(内皮)のはたらきへの急な影響については、紙巻きと加熱式で差がなかったという研究もありますし、ホルムアルデヒドシアノヒドリンなど加熱式ならではの有害物質も見つかっています。「煙が出ない=有害物質も出ない」というイメージは、今分かっていることとは合いません。
加熱式タバコで禁煙できますか?
実は、「加熱式タバコが禁煙ツールとして役に立つ」と言い切れるような質の高い研究は、まだないというのが現時点での到達点です。これまでに加熱式タバコをめぐる13の研究(合計2,666人)が分析されていますが、半年以上きちんと禁煙できたかを報告した研究は1本もなく、含まれた試験はすべてタバコ産業の資金で行われていて、結果の偏りも大きいと評価されています。
実際の診療でよく問題になるのが併用喫煙の多さです。日本の調査では、加熱式タバコを使う方の約半数が「完全にやめるため」と答えた一方で、ほぼ同じくらいの方が「本数を減らすために紙巻きと併用している」と答えています。でも、本数を減らすだけでは健康被害は十分には減りません。健康へのリスクは本数に単純に比例して下がるわけではなく、少ない本数の紙巻きタバコでも心血管のリスクは残ります。加熱式との併用で健康上の利益が得られるという裏付けもありません。2019年の国内インターネット調査では、自分でCOPDがあると答えた方の40.5%、心血管疾患があると答えた方の19.2%が、紙巻きとの併用を含めて加熱式タバコを使っていました(患者さん全体を代表する調査ではありません)。本当はいちばん完全にやめてほしい方々のあいだで、まだ評価の定まらない製品への乗り換えが進んでいます。
禁煙のしっかりした裏付けがあるのは、バレニクリンやニコチンパッチといった保険診療の禁煙補助薬と、行動カウンセリングを組み合わせる方法です。
受動曝露のリスクや若年者への影響は?
加熱式タバコの副流煙は紙巻きより少ないとされますが、周りの人が吸い込むエアロゾルからはニコチン・アルデヒド類・揮発性有機化合物が見つかっていて、ゼロというわけではありません。若年者を対象にした研究では、加熱式タバコを使う若い人で咳や痰などの呼吸器症状が明らかに多く、紙巻きを吸ったことがない若い人でも、使用と症状の増加に関連があると分かっています。香りや刺激の少なさが、ほかのタバコ製品への入り口になってしまうゲートウェイ効果も心配されています。お子さん・妊娠中の方・呼吸器や心臓の病気があるご家族と一緒に暮らしている方は、屋内では使用しないでください。
よくあるご質問
Q1. 紙巻きから加熱式に替えて本数も減ったので、健康被害は減っていますよね?
本数を減らすだけでは、健康被害は十分には減らないと分かっています。心血管や呼吸器のリスクは本数に単純に比例して下がるわけではなく、少ない本数でもリスクは残ります。加熱式に替えても紙巻きと併用しているケースが多いことも、日本の調査で報告されています。取り込み量を示す数値が下がっても、心拍数・血圧への急な影響は紙巻きと同じくらいという報告もあります。やはり完全に「やめる」ことが、いちばん確実なリスク低減になります。
Q2. 煙が出ないので、家族や周囲への影響はないのでは?
加熱式タバコは煙の代わりにエアロゾルを出しますが、その中にはニコチン・アルデヒド類・揮発性有機化合物などが含まれ、室内の空気の質を変えてしまいます。受動曝露のリスクがゼロというわけではありません。お子さん・妊娠中の方・呼吸器や心臓の病気があるご家族と一緒に暮らしている場合は、屋内では使用しないでください。
Q3. 知り合いに加熱式タバコで禁煙できた人もいるのですが?
もちろん個別には、加熱式をきっかけに完全な禁煙へ進まれる方もいらっしゃいます。ただ、研究のレベルで「禁煙ツールとして役に立つ」と結論づけられたものはまだなく、禁煙の結果をきちんと評価できる研究は存在しないと報告されています。一方でバレニクリンやニコチンパッチは禁煙の成功率を高める確かな裏付けがあるので、うまくいく確率の高い方法という意味でも、禁煙外来でのご相談をおすすめします。
Q4. 加熱式タバコを長く続けると COPD になりますか?
今のところ、長く使うことと COPD・肺がんの発症との因果関係を結論づけられる長期研究は揃っていません。ただ動物実験では24週間の慢性的な曝露で肺気腫のような変化が報告されていますし、人を対象にした研究でも肺機能の低下や呼吸器症状の増加が示されています。加熱式タバコを使う方の多くは長年の紙巻き喫煙歴をお持ちで、「すでに進んでいた障害がそのまま続いている」可能性もあります。咳・痰・息切れが続く場合は、呼吸機能検査を受けてみることをご検討ください。
加熱式タバコから完全にやめたい方へ
次のような方は、一度ご相談いただくのがおすすめです。
- 加熱式タバコに替えたが完全にやめたい/併用していて本数を整理したい
- 加熱式に替えてから咳や痰が増えた・息切れが気になる
- 健診で呼吸機能の低下や COPD を指摘された
- 家族の受動曝露が気になっている
- 過去に禁煙外来を試したが続かなかった
加熱式タバコは、どうしても「やめずに続ける形」になりやすい製品です。その点、保険診療の禁煙治療には確かな裏付けがあります。渋谷駅 C1 徒歩7分/並木橋徒歩1分のなみきばしクリニックで、呼吸器専門医がご相談をお受けします。ご予約はWeb予約からどうぞ。
参考文献
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- Davigo M, et al. The Chemical Profile and Toxicological Impact of Heated Tobacco Products. Inhalation Toxicology. 2026;38(2):77-94.
- Andreozzi P, et al. Heated Tobacco Products vs Conventional Cigarettes: A Scoping Review. Intern Emerg Med. 2026;21(2):395-419.
- Braznell S, et al. Impact of Heated Tobacco Products on Biomarkers of Potential Harm and Adverse Events. Tob Control. 2026;35(3):391-403.
- Znyk M, et al. Exposure to Heated Tobacco Products and Adverse Health Effects, a Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(12):6651.
- Wang L, et al. Characterization of Respiratory Symptoms Among Youth Using Heated Tobacco Products in Hong Kong. JAMA Netw Open. 2021;4(7):e2117055.
- Nakama C, Tabuchi T. Use of Heated Tobacco Products by People With Chronic Diseases: The 2019 JASTIS Study. PLoS One. 2021;16(11):e0260154.
