「健診で血圧が高いと言われた」「薬を飲み始めたのに、朝に測るとまだ高い」「いびきを指摘されたことはあるけれど、血圧とは別の話だと思っていた」──そう感じている方は少なくありません。血圧は日中の生活習慣の問題として語られることが多く、眠っている間の呼吸が関係しているとは考えにくいものです。けれども、睡眠中に呼吸が繰り返し止まっている場合、その影響は夜のうちに血圧を押し上げ、朝の数値として表に出てくることがあります。
このページでは、なみきばしクリニックの内科担当医(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)が、睡眠時無呼吸が血圧を上げる仕組み、朝の血圧をどう読めばよいか、薬を飲んでも下がらないときに何を疑うか、そして検査と治療の進め方をご説明します。健診で血圧を指摘された方、通院しながら数値が思うように下がらない方の判断材料になれば幸いです。診察のご希望はWeb予約からどうぞ。
睡眠時無呼吸があると、なぜ血圧が上がるのですか?
眠っている間に呼吸が止まると、血液中の酸素が下がります。体はそれを補おうとして交感神経(こうかんしんけい:体を活動状態に切り替える神経)が緊張し、血管が収縮して心臓の働きが強まります。この反応は体を守る仕組みですが、一晩に何十回も繰り返されると、血圧が高い状態が続きます。
もうひとつ見落とされやすいのが、夜間の血圧の動きです。健康な状態では血圧は夜間に下がります。ところが睡眠中に呼吸が止まる状態が続くと、本来であれば下がるはずの夜間の血圧が高いまま推移し、血管が休まる時間帯が失われます。
さらに、酸素が下がったり戻ったりを繰り返すことによる酸化ストレスや炎症、交感神経の緊張などを通じて、血管にも負担がかかります。睡眠時無呼吸症候群は、高血圧・脳卒中・冠動脈疾患などと関連し、とくに重症例では心血管疾患のリスクが高いことが報告されています。ただし、リスクの大きさは年齢・性別・肥満などの背景や、対象とする病気によって異なります。病気そのものの全体像は睡眠時無呼吸症候群のページにまとめています。
朝だけ血圧が高いのは、睡眠時無呼吸のサインですか?
朝の血圧が高いことは、睡眠時無呼吸を疑う手がかりのひとつになります。ただし、それだけで決まるわけではありません。まずは、朝の数値が本当に高いのかを測定条件から確かめます。
家庭で測った血圧は、135/85 mmHg 以上であれば高血圧の範囲です。診察室では正常なのに家庭で高い状態は仮面高血圧と呼ばれ、治療の必要性が見逃されやすい型です。この区別については高血圧のページで詳しくご説明しています。
朝の血圧が高くなる背景には、睡眠中の呼吸以外の要因も重なります。起きてすぐに安静を取らず測った場合、前夜の飲酒、塩分の摂りすぎ、寒い部屋での測定、薬の効き目が切れる時間帯にかかっていることなど、条件によって数値は動きます。「朝が高い=無呼吸」と短絡せず、次のような睡眠中のサインが重なるかどうかを合わせて考えます。
- いびきが大きい、または家族に呼吸が止まっていると指摘された
- 朝、頭が重い、頭痛がある
- 夜中にトイレで何度も起きる
- 日中に強い眠気がある、会議中や運転中に眠くなる
- 体重が増えてから血圧も上がってきた
いびきと無呼吸の見分け方はいびきと睡眠時無呼吸症候群の違いのページで整理しています。なお、これらの症状がそろわないまま検査で無呼吸が見つかる方もいらっしゃいます。眠気は自覚しにくく、症状の有無だけで否定はできません。
薬を飲んでも血圧が下がらないときに、何を疑いますか?
降圧薬を使っても目標に届かないとき、まず確かめるのは「本当に効いていないのか」という点です。服薬状況や生活習慣を確認し、診察室だけで高くなる白衣効果を除外したうえで、利尿薬を含む3種類以上の異なる系統の降圧薬を、それぞれ十分な量で使っても目標に届かない状態を治療抵抗性高血圧と呼びます。4種類以上の薬を使ってようやく目標内に入っている場合も、これに含まれます。この診断を付ける前に、次の点を順に見直します。
- 薬を飲み忘れていないか
- 診察室でだけ高くなっていないか(家庭血圧で確認します)
- 塩分やお酒の量が増えていないか
- 血圧を上げる薬を飲んでいないか(一部の痛み止め、ステロイド薬、甘草を含む漢方など)
- 睡眠時無呼吸がないか
- ホルモンの病気や腎臓の病気が隠れていないか
これらを確認しないまま薬を増やしても、下がらない理由は残ったままになります。睡眠時無呼吸は、この見直しに必ず含まれる項目です。
高血圧の背景に別の病気がある状態を二次性高血圧と呼びます。次のような特徴があるときは、原因を調べる検査をお勧めします。
- 若い年代で発症した
- 中高年になってから急に高血圧が現れた
- もともと安定していた血圧が、急にコントロールしにくくなった
- 血圧の数値のわりに、心臓や腎臓への負担が大きい
- 血液検査でカリウムが低いと言われた
- 治療抵抗性高血圧に当てはまる
もうひとつ知っておいていただきたい点があります。睡眠時無呼吸を伴う高血圧の方は、副腎(ふくじん:腎臓の上にある小さな臓器)から血圧を上げるホルモンが過剰に出る病気の割合が高い群としても挙げられています。つまり、無呼吸が見つかったからといって、高血圧の原因探しをそこで打ち切ってよいわけではありません。当院では、睡眠の検査を進める場合も、必要に応じて血液検査などによるほかの原因の確認を並行して行います。
家庭の血圧は、どこを見れば手がかりになりますか?
家庭血圧は、朝と晩を分けて平均するところに意味があります。別々に平均を出すと、「一日中高いのか」「朝だけ高いのか」が見分けられます。朝の平均だけが高い方では、夜間の血圧が下がりきっていない可能性を考え、睡眠中の呼吸の状態を確認する価値が出てきます。
測り方の要点は次のとおりです。
- 上腕にカフ(腕帯)を巻くタイプの血圧計を使う
- 1回の機会に2回測り、その平均を記録する
- 朝は起床後1時間以内、トイレを済ませた後、朝食前、薬を飲む前に、1〜2分静かに座ってから測る
- 晩は就寝前に測る
- 判断は7日間、少なくとも5日間の平均で行う
血圧計の選び方や姿勢の細かい点は高血圧のページにまとめています。記録は血圧手帳でもスマートフォンのアプリでも構いません。受診の際にお持ちいただくと、朝と晩の差が一目で分かり、検査に進むかどうかの判断が早くなります。
検査と治療で、血圧はどう変わりますか?
睡眠時無呼吸の検査は、入院せずご自宅で受けられます。指と鼻にセンサーを付けて眠る簡易検査と、脳波を含めて睡眠の質まで調べる精密検査(PSG:終夜睡眠ポリグラフ検査)があります。以前は入院が一般的だった精密検査も、近年は自宅で受けられるようになりました。当院では簡易検査も精密検査も自宅で行っており、入院での検査が望ましい場合は、実施している医療機関にご紹介します。検査の流れは睡眠時無呼吸の自宅検査のページでご案内しています。
結果は、精密検査ではAHI(無呼吸低呼吸指数:睡眠1時間あたりに呼吸が止まったり浅くなったりする回数)、簡易検査では主にREI(呼吸イベント指数)という数字で表されます。簡易検査は実際の睡眠時間ではなく記録時間をもとに計算するため、無呼吸の程度を過小評価することがあります。成人では、AHIまたはREIが5以上で、眠気・いびきなどの症状、または高血圧などの関連する病気がある場合に閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断します。15以上であれば、明らかな症状がなくても診断基準を満たします。重症度は一般に、5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症です。中等症から重症では、CPAP(シーパップ:睡眠中に鼻マスクから空気を送り、気道がふさがるのを防ぐ装置)が治療の中心になります。CPAPを保険で導入する基準は検査の種類によって異なり、精密検査ではAHI 15以上、簡易検査では30以上が目安です。
血圧への効き方は、控えめに見ておくのが正確です。CPAPを続けることで血圧が下がる方はいらっしゃいますが、下がり幅は大きくないことが多く、降圧薬の代わりになるものではありません。血圧の薬を自己判断で減らしたり中止したりしないでください。それでも治療をお勧めするのは、夜間の血圧上昇や、本来下がるはずの夜間血圧が下がらない状態の改善が期待でき、眠気や夜間頻尿といった生活への影響も軽くなる可能性があるためです。効果の現れ方には個人差があります。
CPAPは使っている夜だけ効く治療で、中断すると無呼吸は元に戻ります。続け方や見直しのタイミングはCPAP治療はいつまで続ける?のページでご説明しています。あわせて、減量・減塩・お酒を控えることは、無呼吸と血圧の両方に働きかける取り組みで、治療の土台になります。軽症の方やCPAPを続けられない場合には口腔内装置(マウスピース)も選択肢になります。当院では作製を行っていないため、診断した医師から診療情報提供を行い、歯科で作製していただきます。
血圧と睡眠を一緒に診るために、当院で行っていること
なみきばしクリニックでは、高血圧の管理と睡眠時無呼吸の検査・治療を同じ内科外来で行っています。日本呼吸器学会 呼吸器専門医が担当し、家庭血圧の記録を確認しながら、必要に応じてご自宅での簡易検査・精密検査、診断、CPAPの導入と継続まで一貫して対応します。血圧のために内科へ、いびきのために別の医療機関へ、と分けて通っていただく必要はありません。
鼻づまりがあるとCPAPを続けにくくなるため、アレルギー性鼻炎や喘息といった気道の状態も一緒に診ていきます。呼吸器内科で行っている診療の範囲は呼吸器内科のご案内にまとめています。当院は並木橋交差点からすぐの場所にあり、渋谷駅・恵比寿駅・代官山駅からも通える立地です。朝の血圧が気になる方は、家庭血圧の記録をお持ちのうえご相談ください。
診察室でよくあるご相談
複数の診療経験をもとに再構成した典型的な例です。降圧薬を2種類使っている50代の方が、「晩は落ち着いているのに、朝だけ150台が続く」とご相談にみえました。問診では、配偶者からいびきを指摘されていること、夜中に2回ほどトイレに起きることが分かりましたが、日中の眠気はご本人の自覚としてありませんでした。家庭血圧の記録を朝と晩に分けて平均すると、晩は目標内で、朝の平均だけが高い状態でした。ご自宅での簡易検査で睡眠時無呼吸が疑われ、続いて自宅で精密検査を行ったところ、中等症の閉塞性睡眠時無呼吸と診断されました。血液検査で他の原因も確認したうえでCPAPを導入し、血圧の推移とあわせて経過を診ています。眠気の自覚がないまま見つかる方は珍しくなく、朝と晩を分けて記録していただいたことが検査に進む判断につながりました。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 血圧の薬を飲んでいれば、睡眠時無呼吸はそのままでよいですか? 薬で血圧が目標に入っていても、睡眠中の無呼吸そのものは残ります。無呼吸は夜間の血圧が下がらない状態を作るほか、心筋梗塞や脳梗塞のリスクにも関わります。いびきや呼吸の停止を指摘されている場合は、血圧の治療とは別に検査をお勧めします。
Q. CPAPを始めれば、降圧薬をやめられますか? CPAPで血圧が下がる方はいらっしゃいますが、下がり幅は大きくないことが多く、降圧薬の代わりにはなりません。薬の減量や中止は、家庭血圧の推移を見ながら診察で判断します。自己判断で中止しないでください。
Q. いびきを指摘されたことはありませんが、朝の血圧だけ高いです。検査は必要ですか? 一人で眠っている方や、いびきが目立たないタイプの無呼吸では、指摘されないまま経過することがあります。朝の平均だけが高い状態が続く場合や、降圧薬を増やしても下がらない場合は、検査で確かめる価値があります。まずは家庭血圧を朝と晩に分けて記録し、受診の際にお持ちください。
Q. お酒を控えると、血圧といびきの両方に変化はありますか? 飲酒はのどの筋肉をゆるめて気道を狭くするため、飲んだ夜はいびきや無呼吸が悪化しやすくなります。飲酒量を減らすことは高血圧の生活改善でも勧められており、両方に働きかける取り組みです。変化の大きさには個人差があり、これだけで無呼吸が解消するとは限りません。
参考文献
- 日本高血圧学会『高血圧管理・治療ガイドライン2025』
- 日本呼吸器学会ほか編『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』南江堂
- 日本循環器学会『2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定」関連資料(在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料の見直し)
- 日本呼吸器学会「呼吸器の病気 I-05 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠時無呼吸症候群 / SAS」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
※本ページは一般的な情報提供を目的としています。診断・治療方針は個々の状態により異なります。最終的な判断は診察のうえで行いますので、気になる症状のある方は医療機関にご相談ください。
