「睡眠時無呼吸は太っている人の病気だと思っていたので、自分が疑われるとは考えてもみなかった」「体重は標準なのに、いびきと呼吸の停止を指摘された」──診察室でよくうかがうお話です。実際には、国内で精密検査を受けて睡眠時無呼吸と診断された患者さんのうち、4割以上は肥満ではありませんでした。やせている、あるいは標準体型のまま無呼吸が起きている状態は珍しいものではなく、むしろ「体型が違うから」という理由で見過ごされやすい形です。
このページでは、なみきばしクリニックの内科担当医(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)が、やせていても睡眠時無呼吸が起こる理由、日本人では肥満がなくても起こりやすいと言われる背景、そして肥満以外の原因がある場合の検査と治療の進め方をご説明します。「太っていないから大丈夫」と判断を先送りにしている方の手がかりになればと願っています。診察のご希望はWeb予約からどうぞ。
やせていても睡眠時無呼吸になるのですか?
なります。しかも例外的なことではありません。
新潟県内で1999〜2009年に精密検査を受け、閉塞性睡眠時無呼吸(へいそくせいすいみんじむこきゅう)と判定された8,857名の内訳をみると、BMI 18.5〜24.9の標準体型の方が38%、BMI 18.5未満のやせに当てはまる方が5%で、合計43%がBMI 25未満でした。全国を代表する集計ではありませんが、4割以上が肥満の範囲に入らないまま無呼吸が起きていたことになります。
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に空気の通り道(上気道)が狭くなったりふさがったりして、呼吸が繰り返し止まる病気です。10秒以上の呼吸停止を無呼吸といい、1時間あたりの無呼吸と低呼吸(呼吸が浅くなること)を合わせた回数をAHI(無呼吸低呼吸指数)と呼びます。成人では、AHIが5以上で、眠気などの症状または高血圧などの関連する病気を伴う場合に閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断します。AHIが15以上の場合は、症状の有無にかかわらず診断の対象になります。重症度は5以上15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症と分類します。なお、この記事は成人を対象にしています。
ここで大切なのは、AHIは体重計では測れないという点です。重症度を決めるのは眠っている間に呼吸が何回止まったかであって、体型ではありません。平均でみれば患者さんのBMIは肥満でない方より高く(26.1対22.7)、肥満が最も大きな危険因子であることは確かです。ただしその平均から離れたところに、4割以上の方がいます。
肥満でないのに気道が狭くなるのはなぜですか?
太って外側から押されて狭くなるのではなく、もともとの通り道が狭い、あるいはふさがりやすいためです。肥満以外の原因・悪化要因としては、次の4つが代表的です。
① あごの骨格:あごが小さい、下あごが後ろに引っ込んでいるといった形では、舌の収まる場所がそもそも狭くなります。眠って筋肉がゆるむと舌がのどの奥へ落ち込むため、気道がふさがりやすくなります。あごの後退や小ささは、肥満がなくても睡眠時無呼吸の原因になります。
② 扁桃(へんとう)の肥大:のどの左右にある扁桃が大きいと、その分だけ通り道が狭くなります。子どもで問題になりやすい要因ですが、成人でも残っていることがあります。
③ 舌の大きさ:舌が口の中に対して大きいと、仰向けで眠ったときに気道を圧迫します。
④ 鼻が通らないこと:アレルギー性鼻炎や鼻中隔弯曲(びちゅうかくわんきょく:左右の鼻を隔てる仕切りが曲がっている状態)で鼻づまりが続くと、口で呼吸するようになります。口を開けて眠ると下あごが下がり、舌もいっしょに後ろへ移動するため、のどが狭くなりやすいと考えられています。
これらに加えて、加齢による筋肉のゆるみ、寝る前の飲酒、一部の睡眠薬・鎮静薬の影響でも、いびきや無呼吸は悪化することがあります。男性では40〜50歳代が患者さんの半数以上を占め、女性では閉経後に増加します。
日本人では肥満がなくても起こりやすいと言われるのはなぜですか?
理由としてよく挙げられるのが、あごを含む頭や顔の骨格です。日本人を含むアジアの人々の睡眠時無呼吸では、欧米の人々より肥満の程度が軽くても同じくらいの重症度になることがあり、頭や顔の骨格の関与が報告されています。そこに飲酒や一部の睡眠薬が加わると、いびきや無呼吸は出やすくなります。
ただし、これは「日本人だから骨格のせいで必ず起こる」という意味ではありません。人種による違いを厳密に示したデータは限られており、実際には骨格・体重・鼻やのどの状態・年齢・飲酒の習慣が重なって決まります。骨格そのものを変えなくても、無呼吸はCPAPなどで治療できる状態です。
規模の感覚としては、国際的な推計で、日本の30〜69歳のうちAHI 15以上に当てはまる方は約900万人とされています。一方、治療を受けている方はこれよりはるかに少なく、多くの方が診断されないまま過ごしていると考えられます。病気の全体像は睡眠時無呼吸症候群のページにまとめています。
やせている場合、見逃されやすいのはなぜですか?
「肥満で、日中に強い眠気がある人の病気」という思い込みが、患者さん本人にも周囲にもあるためです。
しかし、日本の患者さんの約半数は日中の眠気を感じていません。眠気がないまま検査で中等症以上と分かる場合があり、症状の軽さは重症度の目安になりません。やせていて、眠気もなく、健診の数値にも大きな問題がない方は、この二重の思い込みによって疑われる機会そのものが少なくなります。
きっかけになるのは、いびきや、家族が気づいた呼吸の途切れです。いびきの音の大小と無呼吸の重さは一致しないため、音が控えめでも無呼吸が隠れていることがあります。この見分け方についてはいびきと睡眠時無呼吸症候群の違いのページで取り上げています。
未治療の睡眠時無呼吸は、高血圧・脳卒中・心筋梗塞などと関連し、とくに重症例ほど心血管のリスクが高くなることが報告されています。やせている方でも、AHIや低酸素の程度に応じた評価が必要で、やせていることは危険性を下げる保証にはなりません。
やせている方の検査と治療はどう進みますか?
進め方そのものは体型で変わりません。まず検査でAHIを測り、重症度に応じて治療を決めます。
大きな持病のない成人では、自宅での簡易検査から始めることが一般的です。検査には、指と鼻にセンサーを付けて眠る簡易検査と、脳波を含めて睡眠の質まで調べる精密検査(PSG:終夜睡眠ポリグラフ検査)の2種類です。以前、PSGは入院して行うのが一般的でしたが、近年は自宅で受けられるようになりました。当院では簡易検査も精密検査も自宅で行っています。簡易検査の結果が陰性や判定不能でも疑いが強い場合は精密検査に進み、重い心臓や肺の病気、神経や筋肉の病気、他の睡眠の病気が疑われる場合などは、入院で検査を行う医療機関へご紹介します。検査の流れや費用は睡眠時無呼吸の自宅検査でご案内しています。
中等症から重症の治療の中心は、CPAP(シーパップ:睡眠中に鼻マスクから空気を送り、気道がふさがるのを防ぐ装置)です。保険で導入する主な数値の要件は検査の種類によって異なり、精密検査ではAHI 15以上、簡易検査では30以上が目安になります。あわせて、日中の眠気などの自覚症状が日常生活に支障をきたしていることも要件になります。この基準に体重の条件は含まれません。
やせている方で事情が変わるのは、減量という手段が使えない点です。肥満のある方では、体重が10%減るとAHIは平均およそ26%減り、逆に10%増えると平均およそ32%増えたと報告されており、減量は有力な選択肢になります。標準体型の方にはこの余地がありません。そのぶん、鼻の通りを整える、仰向けで悪化するタイプでは横向きで眠る、寝る前の飲酒を控えるといった、気道の狭さに直接働きかける対策の比重が上がります。
扁桃が大きい、鼻中隔が曲がっているなど、耳鼻咽喉科での評価が役立つ場合もあります。ただし、そうした所見があるときでも、手術を先に考えるのではなく、まずCPAPを試すことが勧められています。口腔内装置(マウスピース)は下あごを前に出して気道を広げる装置で、当院では作製していないため、診断した医師から歯科へ診療情報提供を行う形でご案内します。
当院では診断からCPAPの導入・継続まで一貫して対応しています。呼吸器の診療全体については呼吸器内科のご案内を、治療を始めたあとの見通しについてはCPAP治療はいつまで続ける?をご覧ください。
診察室でよくあるご相談
以下は、複数の診療経験をもとに再構成した典型的な例です。
30代の女性が、健診で「いびきが大きいので一度調べては」と勧められて来院されました。BMIは21で肥満はなく、日中の眠気も自覚しておられません。問診では、幼い頃からアレルギー性鼻炎があり、鼻がつまって口を開けて眠る習慣が続いていること、朝の口の渇きと軽い頭の重さがあることが分かりました。診察では、あごがやや小さく、下あごが後ろ寄りの形でした。体型からは想定しにくい状況でしたが、鼻づまりと骨格の要素がそろっていたため、自宅での簡易検査をご提案しました。結果は中等症に相当する値で、保険でCPAPを導入する基準は検査の種類によって異なることから、続けて自宅での精密検査を行い、中等症の閉塞性睡眠時無呼吸と確定しました。CPAPを導入し、あわせて鼻炎の治療も行っています。
よくあるご質問(FAQ)
Q. BMIは標準です。それでも検査を受ける意味はありますか? あります。国内の精密検査で診断された患者さんの集計では、43%がBMI 25未満でした。いびきや呼吸の停止を指摘された、朝の頭痛や夜間の頻尿が続いているといった手がかりがあれば、体型にかかわらず検査をお勧めします。
Q. 日中の眠気がありません。治療は必要でしょうか? 眠気の有無だけでは判断しません。日本の患者さんの約半数は日中の眠気を感じておらず、眠気がないまま中等症以上と分かる場合があります。治療の要否は、AHIの値と、血圧などの合併症の状況を合わせて判断します。
Q. あごが小さいことが原因なら、治しようがないのではありませんか? 骨格そのものを変えなくても、無呼吸は治療できます。CPAPは空気の圧で気道を広げる装置なので、狭さの原因が骨格であっても働きます。鼻の通りを整える、仰向けで悪化するタイプでは横向きで眠る、寝る前の飲酒を控えるといった対策も併せて行います。
Q. やせているのにいびきが大きいのは、扁桃のせいですか? 扁桃が大きいことは原因のひとつですが、それだけとは限りません。あごの形、舌の大きさ、鼻づまりが重なっている場合が多く、どこが狭いのかは診察と検査で確かめます。扁桃の手術が向くかどうかは耳鼻咽喉科の評価で決まりますが、そうした所見があるときでも、まずCPAPから始めることが勧められています。
Q. 若くてやせている場合も、検査は同じ内容ですか? 成人であれば、体型によって検査の進め方は変わりません。大きな持病がなければ自宅での簡易検査から始め、必要に応じて自宅での精密検査に進みます。ただし、特定の持病や他の睡眠の病気が疑われる場合は精密検査を優先し、小児は検査の進め方が異なります。
参考文献
- 日本呼吸器学会ほか編『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』南江堂
- 日本呼吸器学会「呼吸器の病気 I-05 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)」
- 日本呼吸器学会 呼吸器Q&A「Q14. 夜、いびきをかく、と言われました。」
- 佐藤誠「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疫学」日本内科学会雑誌 2020;109(6):1059-1065
- Peppard PE, et al. Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing. JAMA. 2000;284(23):3015-3021.
- Benjafield AV, et al. Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. Lancet Respir Med. 2019;7(8):687-698.
- Lee RWW, et al. Differences in craniofacial structures and obesity in Caucasian and Chinese patients with obstructive sleep apnea. Sleep. 2010;33(8):1075-1080.
- Kent D, et al. Referral of adults with obstructive sleep apnea for surgical consultation: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17(12):2499-2505.
※本ページは一般的な情報提供を目的としています。診断・治療方針は個々の状態により異なります。最終的な判断は診察のうえで行いますので、気になる症状のある方は医療機関にご相談ください。
