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家族にいびきを指摘されたら——放置するリスク

執筆:斎藤史武 公開日:2026-09-09

「寝ているとき、息が止まっていたよ」──ご家族やパートナーからそう言われても、本人にはまったく身に覚えがありません。眠っている間の自分の呼吸を、自分で確かめることはできないからです。言われた日は少し気になっても、日中に大きな不都合がなければ、そのまま何年も過ぎてしまうことは珍しくありません。指摘した側も、大げさに騒ぎ立てたいわけではない、けれど毎晩見ているとやはり心配になる──そんな宙ぶらりんな状態が続きます。

このページでは、なみきばしクリニックの内科担当医(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)が、ご家族の指摘がなぜ診断の手がかりとして重みを持つのか、指摘されたまま放置すると何が起こるのか、そしてご本人が受診に気が進まないときにどう伝えればよいかをご説明します。指摘された側・指摘した側のどちらの立場からでも読めるように書きました。診察のご希望はWeb予約からどうぞ。

家族にいびきを指摘されました。受診したほうがよいですか?

「いびきの音がうるさい」というだけであれば、すぐに受診しなければならないわけではありません。判断が変わるのは、呼吸が止まっていたと言われた場合です。目撃があるなら、一度検査で確かめておくことをお勧めします。

眠っている間にのどの奥の空気の通り道がふさがり、呼吸そのものが止まってしまうのが閉塞性睡眠時無呼吸(へいそくせいすいみんじむこきゅう)です。1時間あたりの無呼吸と、呼吸が浅くなる低呼吸を合わせた回数をAHI(無呼吸低呼吸指数)と呼びます。成人では、AHIが5以上で、いびき・日中の眠気・目撃された無呼吸や、高血圧などの関連する病気を伴う場合に閉塞性睡眠時無呼吸と診断されます。AHIが15以上の場合は、症状が明確でなくても診断の対象です。重症度は5以上15未満を軽症、15以上30未満を中等症、30以上を重症と分類します。有病率は定義や年齢によって大きく異なりますが、決してまれではない病気です。

次のような指摘や自覚が重なるときは、検査を受けておく意味があります。

音を聞いただけで単純ないびきと無呼吸を区別することはできません。両者をどう見分けるかはいびきと睡眠時無呼吸症候群の違いで詳しく取り上げています。病気そのものの全体像は睡眠時無呼吸症候群のページにまとめました。

なぜご家族の指摘が、それほど重要なのですか?

眠っている間の呼吸は、本人には観察しようがないからです。検査を受けるまでの段階では、同居する方の目撃が、もっとも実用的な手がかりになります。

もうひとつ理由があります。睡眠時無呼吸では、日中の眠気をはっきり自覚しないまま経過することがあります。夜間に呼吸が何度も止まっていても、本人の感覚としては「よく眠れている」ままのことがあり、疲れやすさも仕事の忙しさのせいと受け取られがちです。そのため、ご本人の自覚症状だけを頼りにすると、検査に進む機会を逃してしまいます。

ご家族に見ていただけると助けになるのは、次の点です。

スマートフォンで数分だけ録音や録画をしておくと、診察の場で共有しやすくなります。これは診断そのものではなく、検査に進むかどうかを決めるための材料と考えてください。

指摘されたまま放置すると、どうなりますか?

問題は大きく3つに分かれます。

① 日中の調子が落ちる 夜間に呼吸が何度も止まると、そのたびに眠りが浅くなり、睡眠が細切れになります。眠った時間のわりに休まらないため、起床時の頭痛や頭の重さ、日中の眠気、集中力や記憶力の低下、倦怠感といった形で表れます。夜間の頻尿が続くこともあります。

② 運転や作業中の眠気につながる 睡眠時無呼吸のある方は、ない方に比べて交通事故のリスクが約2.4倍と報告されています。居眠り運転による事故は、ひとりで運転しているとき、高速道路や郊外の直線道路を走行しているとき、渋滞で低速走行しているときに多いとされています。先ほど述べたとおり眠気を自覚しない方もいるため、「自分は眠くならないから大丈夫」という感覚だけでは、この点を判断できません。

③ 血管や代謝への負担が積み重なる 治療していない睡眠時無呼吸は、高血圧、心房細動などの不整脈、脳卒中、心筋梗塞などの冠動脈疾患と関連し、一般に重症ほどリスクが高いことが観察研究で示されています。ただし、リスクの大きさは病気の種類、年齢、性別、肥満などによって異なり、一律に何倍とはいえません。糖尿病との関連も指摘されています。

ここまで数字を並べましたが、これらは怖がるための数字ではありません。集団でみたときの傾向であり、一人ひとりの結果を言い当てるものでもありません。大切なのは、検査で重症度が分かれば、そこから先の対処の道筋が決まるという点です。検査は自宅で受けられ、健康保険も使えます。指摘された時点で調べておけば、危険性の話は「もう手を打ってある」という話に変わります。

本人が受診に気が進まないとき、どう伝えればよいですか?

ここはガイドラインに答えが書かれている種類の問題ではなく、診療の場で相談を受けることの多い話題です。診察室でのやりとりから、比較的うまくいきやすい伝え方をお示しします。

避けたいのは、危険性の数字だけを繰り返すことです。不安だけが残って行動につながらず、やがて話題そのものが避けられるようになります。数字は検査を勧める理由として一度伝えれば十分で、そのあとは「自宅で一晩」という手軽さの話に移すほうが、結果的に受診につながります。

指摘されたら、まず何から始めればよいですか?

進め方は4段階です。

  1. 問診と診察 … いつ、どのように指摘されたか、日中の眠気、起床時の頭痛、夜間の頻尿、血圧、体重の変化、飲酒や鼻づまりの有無などをうかがいます
  2. 自宅での簡易検査 … 携帯型の装置をお貸しし、指と鼻にセンサーを付けて、ご自宅でいつもどおり眠っていただきます
  3. 必要に応じて精密検査 … 睡眠ポリグラフ検査(PSG:ポリソムノグラフィー)では、脳波を含めて睡眠の質まで調べます。以前は入院して行うのが一般的でしたが、近年は自宅で受けられるようになりました
  4. 結果に応じた方針決め … 中等症から重症ではCPAP(シーパップ:睡眠中に鼻マスクから空気を送り、気道がふさがるのを防ぐ装置)が中心になります。保険診療でCPAPを導入する際の検査値の目安は検査の種類によって異なり、精密検査ではAHI 15以上、簡易検査では30以上です。ただし、実際の保険適用は、日中の眠気などの症状や日常生活への影響を含む所定の要件に基づいて判断されます

検査費用の目安は、3割負担で簡易検査が2,000円台、精密検査(PSG)が6,000円台です。別途、受診に関わる費用がかかります。検査の流れと費用は睡眠時無呼吸の自宅検査で詳しくご案内しています。

生活面では、肥満が背景にある場合、減量に伴って無呼吸の改善が期待できます。観察研究では、体重が10%減るとAHIが平均およそ26%下がると予測されていますが、改善の程度には個人差があります。アルコールは気道の筋肉をゆるめます。喫煙は上気道の炎症と関連し、喫煙者では睡眠時無呼吸が重い傾向も報告されています。仰向けでは気道がふさがりやすいため、横向きで眠ると症状が軽くなる方もいます。ただし、これらは中等症以上の治療の代わりにはなりません。

当院では簡易検査も精密検査も自宅で受けていただけます。診断からCPAPの導入・継続まで一貫して対応しており、入院での検査が望ましいと判断した場合は、実施している医療機関にご紹介します。口腔内装置(マウスピース)は歯科での取り扱いとなるため、診断した医師から診療情報提供を行う形でご案内します。CPAPを始めたあとの続け方はCPAP治療はいつまで続ける?にまとめました。呼吸器の診療全体については呼吸器内科のご案内をご覧ください。

診察室でよくあるご相談

以下は、複数の診療経験をもとに再構成した典型的な例です。

50代の男性が、同居するご家族に付き添われて来院されました。ご家族によると、いびきの途中で呼吸が止まり、しばらくして大きな音とともに再開する場面が毎晩のように見られるとのことでした。ご本人は日中の眠気を自覚しておらず受診にも前向きではありませんでしたが、朝の頭の重さと夜中に2回ほどトイレに起きることは以前から気にされており、健診では血圧が高めと指摘されていました。ご家族が撮っていた短い動画を一緒に確認したうえで、まずは自宅での簡易検査をご提案しました。簡易検査の結果だけでは治療方針を決めきれない値だったため自宅での精密検査に進み、中等症の閉塞性睡眠時無呼吸と診断しました。朝の頭の重さや夜間頻尿が生活に影響していることも踏まえ、保険診療上の要件を満たしたためCPAPを導入し、血圧の経過とあわせて診ています。眠気の自覚がないまま検査で見つかる方は珍しくなく、ご家族の観察が入り口になった例です。

よくあるご質問(FAQ)

Q. 何回くらい息が止まっていると言われたら、受診の目安になりますか? 回数を数えていただく必要はありません。一晩に何回あったかを目で数えるのは難しく、正確な回数は検査でしか分かりません。毎晩のように見ている、あるいは一度でも呼吸が止まっている場面をはっきり見た、というだけで検査に進む理由になります。

Q. 録音や動画は持っていったほうがよいですか? あると診察の助けになります。呼吸が止まっている長さや、その前後のいびきの様子が分かると、検査に進むかどうかの判断がしやすくなります。ただし記録がなくても検査は受けられます。

Q. 指摘されてから何年も経っています。今から調べる意味はありますか? あります。睡眠時無呼吸は長く続くことが多く、体重の増加や加齢に伴って悪化することがあるためです。今の重症度は、今の検査でしか分かりません。経過した年数の長さは、受診を控える理由にはなりません。

Q. いびきをかく日とかかない日があります。それでも検査は必要ですか? 毎晩同じではないことは珍しくありません。お酒を飲んだ日、鼻がつまっている日、仰向けで眠った日に強くなり、そうでない日は静かということがあります。日によって差があること自体は、無呼吸を否定する材料にはなりません。呼吸が止まっている場面が目撃されているなら、検査でお確かめください。

Q. 検査を受けると、そのままCPAPを使うことになるのでしょうか? そうとは限りません。治療方針は重症度によって変わり、軽症であれば減量や寝る姿勢の工夫、飲酒の見直しといった対応から始めることがあります。CPAPを保険で導入する基準も検査の種類によって異なります。検査は治療を決める手続きではなく、今どうなっているかを知るための手順とお考えください。

参考文献

※本ページは一般的な情報提供を目的としています。診断・治療方針は個々の状態により異なります。最終的な判断は診察のうえで行いますので、気になる症状のある方は医療機関にご相談ください。

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