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咳喘息

執筆:斎藤史武 公開日:2026-08-23

「かぜは治ったはずなのに、咳だけが何週間も止まらない」「夜、布団に入ると咳き込んで眠れない」「会議や電話のたびに咳が出て、周りの目が気になる」──長引く咳に悩まされている方は少なくありません。熱もなく、痰もほとんど出ないのに咳だけが続くとき、その原因としていちばん多い病気が咳喘息です。国内の調査では、3週間以上続く咳で医療機関を受診した方のうち、咳喘息が原因の4割ほどを占めていました。

近年「咳喘息」という病名はすっかり広まりました。一方で言葉だけが先に歩き出し、「咳が長引いたら咳喘息」「吸入を少し使えば終わる軽いもの」という受け止め方も見かけます。ここははっきりお伝えしておきます。咳喘息は、喘息です。 気道で起きていることは気管支喘息と変わりません。咳が止まったところで自己判断で吸入をやめると、気道の炎症が残ったままぶり返します。また、長引く咳をひとくくりに咳喘息と決めてしまうと、別の原因を見落とします。診断をつけるところから、いつ薬を減らすかまでを、呼吸器やアレルギーを専門とする医師と組み立てていく病気だとお考えください。

このページでは、なみきばしクリニックの内科担当医(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)が、咳喘息の症状の特徴・診断の進め方・吸入薬による治療・治療をいつまで続けるかを、かみ砕いてご説明します。長引く咳でお困りの方が受診を判断する材料になればと願っています。診察のご希望はWeb予約からどうぞ。

咳喘息とはどんな病気ですか?

咳喘息は、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸の音)や息苦しさを伴わずに、咳だけが長く続く病気です。気管支喘息の軽症型・亜型と考えられており、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起きて、わずかな刺激にも敏感に反応してしまう「気道過敏性(きどうかびんせい)」が高まった状態になっています。

典型的な気管支喘息のような発作的な呼吸困難は起こりません。しかし、咳そのものが生活に与える影響は決して小さくありません。睡眠不足、会話や仕事への支障、電車内や職場での周囲の視線など、「たかが咳」では済まないつらさがあります。

名前に「咳」が付くため、喘息とは別の軽い病気だと受け取られることがあります。実際には喘息という大きなくくりの中に含まれる病態で、気道の炎症を治療するという原則は気管支喘息と同じです。症状が咳だけの段階であることと、治療が短く済むことは別の話です。

咳が続く期間には呼び名があり、3週間以上を「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)」、8週間以上を「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼びます。期間が長くなるほど、かぜなどの感染症よりも、咳喘息のような気道の病気が原因である割合が高くなります。

どんな咳のときに咳喘息を疑いますか?

次のような特徴があるとき、咳喘息の可能性を考えます。

聴診しても喘鳴が聞こえないことが特徴です。ご自身でゼーゼー・ヒューヒューという音を感じる場合は、咳だけにとどまらない状態と考え、典型的な気管支喘息として診断と治療を進めます。咳全般の原因や受診の目安については咳のページでもご紹介しています。

咳喘息の原因は何ですか?

根本にあるのは、気道に起きた慢性的な炎症です。炎症が続くと気道が敏感になり、冷気や会話といった本来なら何でもない刺激でも気管支が軽く縮んでしまい、それが咳のセンサーを刺激して咳が出る、という仕組みと考えられています。

炎症のタイプは一つではありません。好酸球(こうさんきゅう:アレルギー反応に関わる白血球の一種)が関わるタイプが代表的ですが、好酸球が目立たないタイプも少なくありません。そのため、アレルギー性の炎症を示す検査値が低くても、それだけで咳喘息が否定されるわけではありません。

アレルギー体質の方に起こりやすく、アレルギー性鼻炎や花粉症をお持ちの方では合併がよくみられます。かぜなどの気道感染をきっかけに発症し、かぜが治ったあとも咳だけが残る、という経過が典型的です。

どのように診断しますか?

咳喘息は、次の2つを満たす場合に診断します。

  1. 喘鳴を伴わない咳が8週間以上続いている(聴診でも喘鳴が聞こえない)
  2. 気管支拡張薬(気管支を広げる薬)で咳がよくなる

3〜8週間の咳でも診断は可能ですが、3週間未満の咳はかぜなどの感染症が原因のことが多いため、原則としてすぐには確定しません。また、気管支拡張薬の効果がはっきりしないからといって、それだけで咳喘息が否定されるわけではありません。検査の結果や経過とあわせて総合的に判断します。

あわせて、ほかの病気による咳でないことを確かめるために、次のような検査を組み合わせます。

これらは、どれか一つで咳喘息を確定したり否定したりできる検査ではありません。症状の出方や治療への反応とあわせて読み解いていきます。

長引く咳には、咳喘息のほかにも、感染後に咳だけが残る「感染後咳嗽」、鼻水がのどに流れ落ちて出る咳(後鼻漏)、胃酸の逆流による咳、アトピー咳嗽(アレルギーに関連して咳だけが続く、咳喘息とよく似た病気)、COPD(慢性閉塞性肺疾患:長年の喫煙などによる肺の病気)、百日咳やマイコプラズマ感染症など、さまざまな原因があります。血痰が出る・体重が減ってきた・発熱が続くといった症状を伴う場合は、別の病気の検索を優先します。診察と検査で一つずつ整理していきます。

放置するとどうなりますか?

咳喘息は、「そのうち治るだろう」と様子を見ているうちに、喘鳴や息苦しさを伴う典型的な気管支喘息の症状に変わっていくことがある病気です。治療を受けなかった成人の約3割前後で、喘鳴を伴う症状が現れたという報告があります。ただしこれは数十例規模の古い研究から得られた数字で、早い段階から吸入薬を使うようになった現在の見通しをそのまま表すものとは限りません。吸入ステロイド薬を続けた方ではその割合が低かったとする研究もありますが、治療がそれを防ぐかどうかを確かめた比較試験はまだなく、現時点では可能性の段階です。

それでも、いまの咳を楽にするため、そして咳の原因を整理して経過を追っていくために、早めに診断をつけて治療を始める意義がある病気です。

どのように治療しますか?

治療の柱は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬(ICS)です。症状の強さに応じて、気管支を広げる長時間作用性の薬(LABA)との配合剤や、ロイコトリエン受容体拮抗薬(内服薬)を組み合わせます。咳がつらいときに使う、短時間で効く気管支拡張薬(頓用:とんよう。症状が出たときに使うこと)もあります。この薬も、我慢の限界まで取っておくものではありません。咳がつらいと感じたら早めに使っていただき、使った回数を診察でお聞かせください。回数が増えているときは、土台の治療を見直すサインになります。使う量の目安は処方のときにお伝えします。息苦しさや喘鳴が出てきた、使っても楽にならないというときは、咳だけの段階を越えている可能性があります。気管支喘息のページの「症状が悪くなったときは」に受診・救急受診の目安をまとめていますので、あわせてご覧ください。

吸入を始めると、多くの方は1〜2週間ほどで咳が軽くなってきます。ここで大切なのは、咳が止まっても自己判断で治療をやめないことです。咳という症状が消えても、気道の炎症や過敏性はしばらく残っており、中断すると咳が再発しやすいためです。外来でよくお会いするのが、咳が止まった時点で通院をやめ、翌年の同じ季節にまた長引く咳で受診される方です。目安として1年以上治療を続け、薬を段階的に減らし、少ない量でも症状がない状態を確認してから中止を検討します。

吸入薬は、正しく吸えているかどうかで効果が大きく変わります。当院では処方時に吸入手技の確認を行っています。副作用として声がれや口の中のカンジダ(かびの一種による口内炎)が起こることがありますが、吸入後のうがいでリスクを減らせます。

当院での診療について

なみきばしクリニックの内科外来は、日本呼吸器学会 呼吸器専門医・日本アレルギー学会 アレルギー専門医の資格を持つ内科担当医(総合内科専門医)が診療しています。長引く咳の診療は、当院がもっとも力を入れている分野の一つです。

胸部X線検査・呼吸機能検査(スパイロメトリー)・呼気NO検査(FeNO)・モストグラフ・血液検査を院内で行っており、咳の原因の絞り込みに必要な検査を組み合わせてご提案します。検査の結果は診察でご説明し、治療を始めたあとも、咳の経過と検査値の両面から改善を確認していきます。

場所は渋谷駅C1出口から徒歩7分、並木橋交差点から徒歩1分で、恵比寿・代官山方面からも徒歩圏です。月・火・木・金は19時まで、土曜も診療していますので、お仕事帰りにも受診しやすい体制です。ご予約はWeb予約から24時間受け付けています。咳に関する疑問は咳の相談室にもまとめています。

よくあるご質問

Q1. 咳喘息は自然に治りますか? 一時的に咳が軽くなることはありますが、気道の炎症と過敏性が残っていると、かぜや季節の変わり目のたびにぶり返しやすい状態が続きます。治療を受けなかった方の約3割前後で、喘鳴を伴う典型的な気管支喘息の症状が現れたという古い小規模研究の報告もあります。自然経過に任せるより、診断をつけて治療を始めることをお勧めします。

Q2. 市販のかぜ薬や咳止めを飲んでいますが、よくなりません。 咳喘息の咳は気道の炎症と過敏性から生じているため、一般的なかぜ薬や咳止めではよくなりにくいのが特徴です。ただし、市販薬で改善しない咳の原因は咳喘息以外にもあります。感染後に残る咳、鼻水がのどに流れることによる咳、胃酸の逆流による咳なども同じように市販薬が効きにくく、「効かない」というだけで咳喘息と判断はできません。診察と検査で原因を確かめたうえで、それに合わせた治療をご提案します。

Q3. 吸入ステロイドと聞くと、副作用が心配です。 吸入薬は気道に直接届くごく少量のステロイドを使うため、通常の用量であれば、飲み薬のステロイドと比べて全身への影響はわずかとされています。主な副作用は声がれと口の中のカンジダで、吸入後のうがいでリスクを減らせます。長期に使う薬だからこそ、心配な点は診察のたびにご相談ください。

Q4. 咳喘息と気管支喘息はどう違うのですか? 診察のなかで「わたしの喘息は何喘息ですか?」というご質問を受けることがあります。そのときは「喘息は喘息です」とお答えしています。ふだん使われる「喘息」は「気管支喘息」を省略した言葉で、咳喘息はその軽症型・亜型──簡単に言えば「咳だけしか症状がない、軽い段階の喘息」です。喘息(気管支喘息)という大きなくくりの中に咳喘息が含まれる関係で、気道で起こっていること(炎症と過敏性)はどちらも同じ、治療の原則も同じです。喘鳴や呼吸困難を伴うようになった場合は、典型的な気管支喘息として治療を続けます。

Q5. 治療はいつまで続けますか? 咳は1〜2週間で改善することが多いのですが、再発を防ぐには症状が消えてからの継続が大切です。目安として1年以上続けたうえで、薬を減らしても症状がない状態を確認しながら、中止できるかを一緒に判断していきます。気道の炎症を治療しなければならないことは気管支喘息と同じですが、咳だけの段階である咳喘息では、典型的な喘息より短い期間で治療を終えられる場合が多い、というのが現在主流の考え方です(典型的な喘息では、成人はいったん良くなっても吸入薬を完全にはやめないのが一般的です。なお、この考え方は今後の研究によって変わる可能性があります)。中止後に咳がぶり返すこともあるため、その場合は早めにご相談ください。

かぜのあとの咳が3週間以上続いている方へ

次に当てはまる方は、一度受診をご検討ください。

咳喘息は、原因に合った治療を行えば咳のコントロールが十分に期待できる病気です。長引けば長引くほど生活への負担は積み重なります。「咳くらいで受診してよいのだろうか」とためらわず、ご相談ください。渋谷・並木橋のなみきばしクリニックで、呼吸器専門医・アレルギー専門医がお待ちしています。ご予約はWeb予約からどうぞ。

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