「健診はいつも異常なしなのに、食後にひどく眠くなる」「テレビで見た『血糖値スパイク』が気になって調べてみたけれど、書いてあることがばらばらで判断がつかない」──診察室でよく伺うご相談です。この言葉は広く知られるようになった一方で、自分が当てはまるのかどうかは分かりにくいままです。まずは、この言葉が何を指しているのかを整理するところから始めます。
このページでは、なみきばしクリニックの内科担当医(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)が、血糖値スパイクと呼ばれている状態の正体、健診の空腹時血糖と HbA1c では見つからないことがある理由、調べるための検査、そして生活の中でできることをご説明します。健診結果を手に「これは調べたほうがよいのか」と迷っている方の判断材料になればと願っています。診察のご希望はWeb予約からどうぞ。
「血糖値スパイク」とは何を指す言葉ですか?
食事のあとに血糖値が急に上がる状態を指す通称です。医学の言葉としては「食後高血糖(しょくごこうけっとう)」と呼びます。
血糖値スパイクという言い方は報道や健康番組を通じて広まったもので、診療ガイドラインや公的な用語解説には出てきません。病名でも診断名でもない、という点は先にお伝えしておきます。
食後高血糖には数字の目安があります。国際糖尿病連合のガイドラインでは、食後1〜2時間の血糖値が 140 mg/dL を超える状態を食後高血糖としています。ただし、これは食後高血糖を考える目安であり、一般の食事のあとに一度 140 mg/dL を超えただけで糖尿病や境界型と診断するものではありません。正式な判定には、後述する75g経口ブドウ糖負荷試験などを用います。
健康な状態であれば、食事のあとに血糖値がいったん上がっても、すい臓からインスリン(血糖を下げるホルモン)が速やかに出て、血糖値は元の範囲へ戻ります。インスリンの出る量が少なかったり、働きが十分でなかったりすると、食後に血糖値が大きく上がり、下がりきるまでに時間がかかります。これが食後高血糖の中身です。
空腹時血糖とHbA1cが正常でも、見つからないことがあるのはなぜですか?
健診の血糖検査が、食後の時間帯を測らない仕組みになっているためです。
特定健診の血糖検査は、空腹時血糖か HbA1c(ヘモグロビン エーワンシー:過去1〜2か月の血糖の平均を映す検査)のどちらかを行う決まりです。やむを得ず食後に採血する場合は随時血糖で代えることが認められていますが、そこにも条件があり、食直後は除くとされています。
それぞれの時間の定義は次のとおりです。
- 空腹時:絶食10時間以上
- 随時血糖:食事開始から3.5時間以上かつ絶食10時間未満
- 食直後:食事開始から3.5時間未満(健診の血糖検査からは除かれる)
食後高血糖がもっともはっきり表れるのは食後1〜2時間です。上の区分に当てはめると、この時間帯は食直後にあたり、健診の採血からは外れています。空腹時に測った値は、血糖がすでに下がったあとの値です。
HbA1c も、食後だけの上がり下がりを拾いきれない場合があります。1〜2か月の平均を映す数値のため、食後にだけ高く、ほかの時間帯が低ければ、平均は基準の中に収まります。HbA1c そのものの読み方はHbA1cとは?基準値と数値の読み方にまとめています。
こうした事情から、食後高血糖は一般的な健康診断では見つかりにくく、「隠れ糖尿病」と俗称されることがありますが、医学的な診断名ではなく、境界型や食後高血糖を含む幅広い状態を指して使われる言葉です。糖尿病が確定したという意味ではありません。健診で異常なしと言われた方に隠れているのは、体質が特殊だからではなく、検査の組み立てがそうなっているためです。
食後だけ血糖が高い状態は、放っておいてよいのですか?
すぐに危険が迫っている状態ではありませんが、そのまま置いておく段階でもありません。
血糖の状態は、ブドウ糖負荷試験の結果をもとに、次の3つに分けて考えます。
| 区分 | 判定の目安 |
|---|---|
| 正常型 | 空腹時血糖 110 mg/dL 未満 かつ 負荷後2時間値 140 mg/dL 未満 |
| 境界型 | 正常型にも糖尿病型にも当てはまらないもの |
| 糖尿病型 | 空腹時血糖 126 mg/dL 以上 または 負荷後2時間値 200 mg/dL 以上 |
ブドウ糖負荷試験で空腹時血糖が 126 mg/dL 未満、負荷後2時間値が 140〜199 mg/dL の場合は境界型に入り、耐糖能異常(たいとうのういじょう:糖を処理する力が落ちている状態)と呼びます。食後高血糖はここに重なりますが、普段の食事のあとや持続血糖測定で一度 140 mg/dL を超えただけでは、境界型とは診断しません。空腹時血糖だけが 110〜125 mg/dL のものは空腹時血糖異常と呼び、両方に当てはまる方もいます。
空腹時血糖 100〜109 mg/dL は正常の範囲に入りますが、「正常高値」として区別されています。この範囲の方に負荷試験を行うと、食後の処理能力が落ちていると分かる割合が高いためです。
気をつけたいのは、動脈硬化に関わる合併症のリスクが、糖尿病と診断されるより手前の境界型の時点から上がり始めることです。境界型は糖尿病型へ進みやすい段階でもあり、なかでも空腹時と食後の両方が高い方のリスクがもっとも高く、次いで食後だけ高い方、空腹時だけ高い方の順とされています。
とはいえ、境界型はすぐに薬を始める段階ではありません。食事と運動を見直し、体重が増えているならその是正を図りながら、定期的に検査で確かめていく段階です。早く分かるほど、生活の見直しという手が多く残ります。糖尿病と診断されたあとの検査や治療の進め方は糖尿病のページにまとめています。
食後の高血糖は、どうやって調べるのですか?
中心になるのは、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT:ブドウ糖の溶けた飲み物を飲み、血糖の上がり方と下がり方を調べる検査)です。
進め方は決まっています。検査前の3日以上、糖質を150g以上含む食事をとっておき、当日は10〜14時間の絶食のうえ、早朝の空腹時に検査を始めます。75g のブドウ糖を含む 225〜350mL の溶液を5分以内に飲み、飲む前と2時間後に採血します。検査の間は水以外の飲食を控え、安静に過ごし、喫煙も控えます。飲んでから30分後・1時間後にも採血しておくと、この先どのくらい糖尿病になりやすいかの見当がつきます。負荷後1時間値が高い方は、判定が正常型であっても糖尿病型へ進みやすいためです。
どういう方に勧められるかも決まっています。強く勧められるのは、次のいずれかに当てはまる方です。
- 空腹時血糖 110〜125 mg/dL
- 随時血糖 140〜199 mg/dL
- HbA1c 6.0〜6.4%(明らかな糖尿病の症状がある方を除く)
行うことが望ましいとされるのは、次のいずれかに当てはまる方です。
- 空腹時血糖 100〜109 mg/dL
- HbA1c 5.6〜5.9%
- 上に当てはまらなくても、糖尿病の家族歴が濃い方、肥満のある方
このほか、食後1〜2時間に採血して血糖値を測る方法や、皮下にセンサーを付けて血糖の動きを続けて記録する方法(持続血糖測定)もあります。ただし、判定に用いる血糖値は静脈から採った血液で測る決まりで、指先で測る簡易血糖測定器や持続血糖測定の値をそのまま診断に使うことはしません。どの方法で調べるかは、健診結果と体の状態を見たうえで診察で決めます。75g経口ブドウ糖負荷試験が必要と判断した場合は、実施できる医療機関をご案内します。
食後の血糖のために、生活の中でできることはありますか?
体を動かす量を増やすことと、体重が増えているなら減らすことが柱になります。食事では、食べすぎや糖分を含む飲料を控え、主食・主菜・副菜を組み合わせた規則的な食事を心がけます。極端な糖質制限ではなく、体格や活動量に合った続けられる方法を選びます。
減量が進むと、インスリンの働きが改善します。ウォーキングのような有酸素運動や、スクワットのように筋肉へ負荷をかける運動でも、インスリンの効き目は改善します。
量の目安は国の指針に示されています。
- 歩行またはそれと同じくらいの強さの身体活動を1日60分以上(1日およそ8,000歩以上に相当)
- 息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上
- 筋力トレーニングを週2〜3日
- 座りっぱなしの時間が長くなりすぎないようにする
これらは一般成人の目安です。年齢・体力・持病に応じて調整し、運動を制限されている方は医師に相談してから始めてください。
すでに糖尿病がある方では、運動をしない日が2日以上続かないようにすることが勧められています。インスリンの効きは、体を動かし続けているあいだに保たれるためです。
一度に全部を変える必要はありません。食後高血糖が疑われる段階は、生活の見直しで戻せる余地が残っている段階でもあります。数値の動き方には個人差がありますので、続けられる形を一緒に決めていきます。腹囲や血圧、脂質もあわせて指摘されている方はメタボリックシンドロームのページもご覧ください。
どんなときに受診を考えればよいですか?
健診の血糖の欄に印がついた方、ご家族に糖尿病の方がいる方、ここ数年で体重が増えてきた方は、一度ご相談ください。
健診では、空腹時血糖 100 mg/dL と HbA1c 5.6% が生活習慣を見直す区切り、空腹時血糖 126 mg/dL と HbA1c 6.5% が受診を勧める区切りになっています。
なみきばしクリニックは、渋谷駅C1出口から徒歩7分、並木橋交差点から徒歩1分にあります。内科は総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医である斎藤史武医師が担当し、院内で血液検査・尿検査・心電図・胸部X線検査を行っています。渋谷区の特定健診(40〜74歳)の実施医療機関で、個人健診では糖尿病検査(血糖・HbA1c)まで含むコースをご用意しています(健康診断のご案内)。健診結果をお持ちいただければ、その場で次に必要な検査の方針を立てます。
血糖以外の項目も指摘された方は健康診断で要精密検査と言われたらを、血圧・脂質・体重まで含めた全体像は生活習慣病のページをご覧ください。血糖はほかの項目と並べて読むほうが判断しやすくなります。
診察室でよくあるご相談
以下は、複数の診療経験をもとに再構成した典型的な例です。
40代の男性が、「毎年、生活習慣の見直しと言われるだけで受診を勧められたことはないが、父が糖尿病なので気になる」と来院されました。持参された結果表は空腹時血糖104 mg/dL、HbA1c 5.9% で、どちらも生活の見直しを勧める段階にとどまっていました。問診では、昼食後に強い眠気が出ること、この3年で体重が5kg増えたことを確認しました。空腹時の数値だけでは食後の状態が分からないため、詳しく調べる方法をご説明し、あわせて血圧・脂質・腎機能も測り直しました。ブドウ糖負荷試験は実施できる連携先をご案内し、お仕事の都合に合わせて受けていただくこととし、それまでは通勤で歩く距離を伸ばすことと夜遅い食事を早めることの2点から始めていただきました。数値が正常の範囲でも、家族歴と体重の動きがあれば、調べる意味は十分にあります。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 食後に強い眠気やだるさが出ます。血糖値スパイクでしょうか?
眠気やだるさだけで判断することはできません。食後の眠気は、食事の量や内容、睡眠不足、前夜の飲酒でも起こります。血糖が関わっているかどうかは、食後の血糖値を実際に測って確かめる必要があります。気になる方は健診結果を持ってご相談ください。
Q. 健診で「異常なし」でした。それでも調べたほうがよいですか?
全員に必要な検査ではありません。ただし、空腹時血糖が100〜109 mg/dL の方、HbA1c が5.6〜5.9% の方、糖尿病の家族歴が濃い方や肥満のある方は、詳しく調べることが望ましいとされています。
Q. ブドウ糖負荷試験は、どのくらい時間がかかりますか?
飲む前の採血から2時間後の採血まで、検査そのものにおよそ2時間かかります。前日までの食事のとり方にも条件があるため、あらかじめ日程を決めて受ける検査です。
Q. 家庭用の測定器で食後の血糖を測れば分かりますか?
血糖の動きを知る手がかりにはなりますが、診断には用いません。判定に使う血糖値は、静脈から採った血液で測る決まりになっているためです。ご自身で測った値が高めだった場合は、その記録を持って受診してください。診察で採血の方法と時間を決めます。
Q. 食後高血糖と言われたら、薬を飲むことになりますか?
その段階でただちに薬が始まることはありません。境界型は、生活の見直しと定期的な検査で経過を追う段階と位置づけられています。
参考文献
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第1章 糖尿病診断の指針 ― 図2「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の判定区分と判定基準」/Q1-2「75g OGTT が推奨される場合」「グルコース負荷試験(OGTT)の実施手順」
- 厚生労働省『標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)』第2編 第2章「健診の内容」/別紙5「健診検査項目の保健指導判定値及び受診勧奨判定値」/「血糖高値に関するフィードバック文例集」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」
- International Diabetes Federation. Guideline for management of postmeal glucose. 2007(2011年改訂)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版/情報シート:慢性疾患を有する人の身体活動のポイント
※本ページは一般的な情報提供を目的としています。診断・治療方針は個々の状態により異なります。最終的な判断は診察のうえで行いますので、気になる数値のある方は医療機関にご相談ください。
