健診の結果表に「メタボリックシンドローム該当」と印字されていた、あるいは後日「特定保健指導のご案内」という封筒が届いた──開いてみても、腹囲と血圧と血糖と脂質の数字が並んでいるだけで、どれとどれが組み合わさって「該当」になったのかは書かれていません。体重は10年変わっていないのに該当した方もいれば、太っているのに該当しなかった方もいて、周囲の話と食い違うことも起こります。
このページでは、なみきばしクリニックの内科担当医(総合内科専門医・呼吸器専門医・アレルギー専門医)が、メタボリックシンドロームの診断基準、健診で特定保健指導の対象が決まる仕組み、そして改善に取り組む順番を整理します。肥満そのものの治療や、血圧・血糖・脂質それぞれの治療の詳細は各ページに譲り、「何と何が組み合わさっているのか」「まずどれから動かすのか」に絞ります。診察のご希望はWeb予約からどうぞ。
メタボリックシンドロームの診断基準は、どのように決まっていますか?
診断基準は、腹囲を必須条件に置き、そこに代謝の異常が2つ以上重なったときに該当する、という二段構えです。
必須項目は、ウエスト周囲径(腹囲)が男性85cm以上、女性90cm以上であること。内臓脂肪面積が男女とも100cm²以上にあたる目安として置かれた数値です。
そのうえで、次の3項目のうち2項目以上が当てはまると、メタボリックシンドロームと診断されます。
- 中性脂肪(トリグリセライド)150mg/dL以上、かつ/または HDLコレステロール40mg/dL未満
- 収縮期血圧130mmHg以上、かつ/または 拡張期血圧85mmHg以上
- 空腹時血糖110mg/dL以上
読み方で迷いやすいのが「かつ/または」です。1番なら、中性脂肪だけが高くても、HDLコレステロールだけが低くても、両方でも、まとめて1項目と数えます。血圧も同じで、上と下のどちらかが基準を超えていれば1項目です。腹囲が基準を超えていても、当てはまるのが1つだけなら診断基準の上では該当しません。なお、高中性脂肪血症・低HDLコレステロール血症、高血圧、糖尿病に対する薬物治療を受けている場合は、現在の検査値が基準内でも、それぞれ該当する項目に含めます。判定区分そのものの読み方は健康診断で「要精密検査」と言われたらにまとめてあります。
「メタボ=太っていること」ではないのですか?
診断基準の必須項目は、体重でもBMI(体格指数)でもなく腹囲です。同じ体重でも、脂肪が内臓のまわりについているのか皮下についているのかで代謝への影響は変わります。腹囲を入口に置いているのは、内臓脂肪の量を面積の測定に代えて簡便に見積もるためです。
そして内臓脂肪が溜まっているだけでも診断は成立しません。血圧・血糖・脂質のうち2つが同時に基準を外れて、はじめてメタボリックシンドロームになります。つまりこの病名は、体型そのものではなく、内臓脂肪の蓄積と代謝の乱れが組み合わさった状態を指しています。
逆に、腹囲が基準に届かなかったから安心、というわけでもありません。腹囲が基準未満でも、血圧高値・脂質異常・血糖高値・喫煙といったリスクが1つ以上ある方では、心血管疾患や脳血管疾患などの発症リスクが上がるため、個別にリスクを判定することが望ましいとされています。体重や腹囲そのものが健康障害につながっている状態については肥満症のページをご覧ください。
健診で届く「特定保健指導のご案内」は、診断基準とどう違いますか?
この2つは、目的の違う別々の物差しです。診断基準が状態の定義であるのに対し、特定保健指導の案内は、40歳から74歳までの特定健診の結果から「生活習慣の改善による予防効果が大きく期待できる方」を選び出す仕組み(階層化)で決まります。手順は3段階です。
ステップ1(内臓脂肪の蓄積をみる) 腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上ならグループ(1)。腹囲がそれに当てはまらず、BMIが25以上ならグループ(2)。
ステップ2(追加リスクを数える)
- 血圧:収縮期130mmHg以上、または拡張期85mmHg以上
- 脂質:空腹時中性脂肪150mg/dL以上(やむを得ず空腹時に採血できない場合は随時中性脂肪175mg/dL以上)、またはHDLコレステロール40mg/dL未満
- 血糖:空腹時血糖100mg/dL以上。空腹時血糖を測定できない場合などはHbA1c(NGSP値)5.6%以上、または条件を満たす随時血糖100mg/dL以上を用います。空腹時血糖とHbA1cの両方を測定している場合は、空腹時血糖を優先します
- 喫煙:吸っている場合。ただし上の3つのうち1つ以上に当てはまるときだけ数えます
ステップ3(支援のレベルを決める) グループ(1)は、追加リスクが2つ以上で積極的支援、1つで動機付け支援、0で情報提供。グループ(2)は、3つ以上で積極的支援、1つか2つで動機付け支援、0で情報提供となります。
数値の基準で特に大きく食い違うのが血糖です。診断基準の線は空腹時血糖110mg/dLですが、階層化では空腹時血糖100mg/dL以上で1リスクと数えます。「メタボとは書かれていないのに案内が届いた」という状況の多くは、この差から生まれます。判定全体で見ると、違いは血糖だけではありません。階層化では、腹囲が基準未満でもBMI 25以上なら対象候補になること、随時中性脂肪175mg/dL以上も用いること、喫煙を追加リスクに数えること、服薬の有無や年齢の扱いが異なることも、診断基準にはない点です。HbA1cの読み方はHbA1cとは?基準値と数値の読み方にまとめてあります。
例外もあります。血圧・血糖・脂質の治療薬をすでに服用している方は、特定保健指導の対象になりません。通院先で医学的な管理の一環として生活の相談を続けるほうが適しているためです。65歳以上75歳未満の方は、積極的支援に相当しても動機付け支援として行います。
「動機付け支援」と「積極的支援」は何が違いますか?
違いは、関わる回数と期間です。動機付け支援は原則1回の支援を行い、3か月経過後に評価します。積極的支援は初回の面接に加えて3か月以上の継続的な支援があり、そのうえで評価します。どちらも実績評価では体重と腹囲の測定が必須で、「気持ちが変わったか」ではなく数字で確かめる建て付けです。
積極的支援には終了の条件があり、成果と取り組みを点数化して合計180ポイント以上が求められます。配点で最も大きいのは腹囲2cm以上かつ体重2kg以上の減少で、これだけで180ポイントに達します。体格などに応じて、健診時の体重の2.4%以上の体重減少と、それと同じ数値以上の腹囲減少を用いる方法もあります。食習慣・運動習慣・休養習慣の改善は各20ポイント、禁煙は30ポイントです。
2023年度の実績では、特定健診の受診者約3,123万人(実施率59.9%)のうち、特定保健指導の対象になった方は約519万人、受診者の16.6%でした。実際に終了した方は約143万人で、実施率は27.6%です。案内が届いても使わないままの方のほうが多いのが現状です。案内が届いた場合は、利用できる期限や方法を確認し、生活を見直す機会として活用してみてください。
改善は、どこから手を付ければよいですか?
腹囲も血圧も血糖も脂質も、と同時に取りかかると続きません。順番をつけるための考え方を3つに整理します。
1. 受診勧奨判定値を超えている項目があれば、そこから相談する 健診の判定値は、生活の見直しから始める保健指導判定値と、医療機関での管理が必要な場合がある受診勧奨判定値の2段階に分かれています。受診勧奨判定値は、血圧140/90mmHg、空腹時血糖126mg/dL、HbA1c 6.5%、LDLコレステロール140mg/dL、中性脂肪300mg/dL(空腹時または随時)です。収縮期血圧160mmHg以上または拡張期血圧100mmHg以上は、さらに早めの受診が勧められます。この段階の項目は、生活の見直しと並行して診察でご相談ください。詳しくはLDLコレステロールが高いと言われたらと家庭血圧の測り方をご覧ください。
2. 喫煙している場合は、禁煙が上位に来る 血圧と喫煙は、それぞれ単独でも循環器疾患の発症リスクとして重みがあります。特定保健指導の評価でも、禁煙の配点は食事や運動より高く置かれています。減量より先に取り組む価値のある項目です。当院の禁煙外来もご利用いただけます。
3. 残りは「2cmと2kg」から始める 先ほどの2cm・2kgが、特定保健指導の最初の目標です。行動目標は食習慣・運動習慣・喫煙・休養から選んで設定し、2か月以上続いたかどうかで評価します。制度でも、生活全体を一度に変えるのではなく、本人が実行でき、あとから評価できる具体的な目標を一つまたは少数に絞って設定します。同時に全部を変えるやり方は続きにくいからです。何を選ぶかは、生活のどこに余白があるかで決めます。複数の項目が重なっている方は生活習慣病のページもご覧ください。
当院では、脂質・血糖・HbA1c・肝機能を含む血液検査、尿検査、心電図、胸部X線検査を院内で行っています。血管の硬さと詰まりの程度をみる動脈硬化検査(ABI/PWV)は個人健診のオプションです。渋谷区の特定健診(40〜74歳)の実施医療機関ですので、健診の受診から結果のご相談までを続けてお引き受けします。特定保健指導のご案内が届いた方の「どれから手を付けるか」というご相談も承ります。健診の内容は健康診断のご案内を、内科でどこまで診ているかは内科のご案内をご覧ください。心臓や首の血管、腹部を画像で詳しく調べる必要があるときは、連携する医療機関へご紹介します。
診察室でよくあるご相談
複数の診療経験をもとに再構成した典型的な例です。40代後半の男性が、勤務先の健診のあとに届いた「特定保健指導のご案内」を持って来院されました。結果表には、腹囲87cm、血圧128/78mmHg、空腹時血糖102mg/dL、HbA1c 5.9%、中性脂肪128mg/dL、HDLコレステロール55mg/dLとあり、ご本人は「メタボとは書かれていないのに、なぜ案内が来たのか」と話されました。診断基準では血糖の線が110mg/dLのため該当しませんが、階層化では血糖の線が100mg/dLで、腹囲の基準を満たしたうえで追加リスクが1つ、動機付け支援の対象になっていました。問診では、帰宅が22時を過ぎる日が続き、夕食のあとに菓子を食べる習慣ができていることを確認しました。どの数値も外れ方はわずかで、薬を検討する段階ではないとお伝えし、夜の間食をやめることと帰りに一駅分歩くことの2つに絞って、3か月後に採血で確かめる方針としました。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 腹囲が基準より小さければ、メタボリックシンドロームにはならないのですか? 診断基準の上では該当しません。ただし血圧・血糖・脂質・喫煙のリスクは、腹囲が基準未満でも重なるほど発症リスクを押し上げます。腹囲以外の項目を指摘されている場合は、該当するかどうかとは切り離して、その項目自体をご相談ください。
Q. 血圧の薬を飲んでいますが、特定保健指導の案内は届きますか? 血圧・血糖・脂質の治療薬を服用している方は、特定保健指導の対象になりません。すでに通院しているため、生活習慣の見直しは診療の中で続けるという考え方によります。案内が届かないことは「見直さなくてよい」という意味ではありませんので、通院先でご相談ください。
Q. 尿酸値はメタボリックシンドロームの診断基準に入りますか? 入っていません。診断基準に含まれるのは腹囲・血圧・空腹時血糖・中性脂肪・HDLコレステロールで、尿酸は含まれません。国が定める特定健診の基本的な検査項目にも尿酸は含まれず、結果表に欄がないこともあります(保険者や自治体が独自に追加している場合はあります)。尿酸を指摘された方は尿酸値が高いまま放置するとどうなる?をご覧ください。
Q. 該当と言われたら、すぐに薬を飲むことになりますか? 該当したこと自体は、薬を始める判断とは別のものです。特定保健指導の対象者は、生活習慣の見直しによる改善が期待される方として選ばれます。ただし、同時に受診勧奨判定値を超えている項目がある場合もあり、その場合は医療機関への受診を優先または並行しますので、その項目について診察でご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省『標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)』第2編 第3章「保健指導対象者の選定と階層化」/第3編 第3章 3-7「動機付け支援」「積極的支援」/別紙5「健診検査項目の保健指導判定値及び受診勧奨判定値」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「メタボリックシンドロームの診断基準」
- 厚生労働省『特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(第4.3版)』/『第4期 特定健康診査・特定保健指導に関するQ&A集』
- 厚生労働省「特定健診・特定保健指導の実施状況について(2023年度)」
※本ページは一般的な情報提供を目的としています。判定の基準は健診の種類や年度によって異なる場合があり、診断・治療方針は個々の状態により変わります。最終的な判断は診察のうえで行いますので、気になる結果のある方は医療機関にご相談ください。
