頬に丸い赤みが出てかゆいので、家にあった湿疹の塗り薬を使ってみた。しばらくは楽になったのに、やめるとまた広がってくる──その繰り返しの正体が、顔にできた水虫だったということがあります。白癬菌(はくせんきん:水虫を起こすカビ)が感染するのは足に限りません。うぶ毛の生えている皮膚なら、顔にも体にも股にも住みつきます。
このページでは、なみきばしクリニックの皮膚科担当医(日本皮膚科学会 皮膚科専門医)が、顔・体・股にできる白癬の見た目と、湿疹との見分け、確かめ方と治し方をご説明します。ご相談はWeb予約からどうぞ。足の水虫と爪の水虫は水虫(白癬)のページにまとめてありますので、ここは足以外に絞ります。
Q. 水虫は足にできる病気ではないのですか?
白癬菌は足だけでなく、顔や体、股などさまざまな場所に感染します。股とその周囲にできたものを股部白癬(こぶはくせん:いんきんたむし)、顔や体などのうぶ毛の生えた皮膚にできたものを体部白癬(たいぶはくせん:ぜにたむし)と呼びます。
「水虫」という言葉が足の症状に使われてきたため、顔や体の赤みが同じ菌によるものだとは結びつきにくいところがあります。医学的には、感染した場所で呼び名が変わるだけで、手の甲、足の甲、そして顔も体部白癬に含まれます。
皮膚科を新しく受診する方の1割ほどが皮膚のカビによる病気で、その内訳は足の白癬が51.5%、爪の白癬が33.3%と大半を占めます。これに続くのが体部白癬の8.3%、股部白癬の4.9%です。多数派ではありませんが、皮膚科の外来では日常的に出会う病気です。
Q. 顔や体にできた白癬は、どんな見た目ですか?
円形から楕円形の赤みが輪を描くように外へ広がり、輪の中は少し治ったように見えるのが典型で、強いかゆみを伴います。ただし顔では境界がぼやけ、この形にならない例が少なくありません。
菌は外側へ向かって角質を食べながら進むため、進行中の縁がもっとも赤く盛り上がり、細かい皮むけ(鱗屑:りんせつ)が付きます。取り残された中心は炎症が引いて、色がやや濃く残るだけになります。これが「輪の中は治っているように見える」正体です。
輪の形にならず、見分けにくくなるのは次のような場合です。
- 顔にできたとき:顔は皮膚が薄く、皮脂や日光の影響も受けるため、輪郭がはっきりしません。欧米では顔の白癬にわざわざ別の呼び名を与えて注意を促しています
- 炎症の弱い菌のとき:格闘技の場で広がるタイプの菌は炎症が軽く、かゆみも目立ちません。輪の形をとらないことが多く、湿疹との区別が難しくなります
- ペットからうつったとき:炎症は強いのに顕微鏡で見える菌は少なく、貨幣状湿疹(コインのような形の湿疹)などと間違えられやすい傾向があります
紛らわしい病気には、湿疹やかぶれ、汗による皮膚炎があります。顔の赤みでは脂漏性皮膚炎とも紛れます。発疹全般をどう見分けるかはかゆい発疹の見分け方にまとめました。
Q. 湿疹だと思ってステロイドの塗り薬を使うと、どうなりますか?
かゆみと赤みは一時的に軽くなりますが、菌は減らないため、塗るのをやめると再び広がります。炎症が抑えられたぶん輪の形もぼやけるので、あとから見分けるのが難しくなります。
ステロイドの塗り薬は炎症を抑える薬で、菌を退治する薬ではありません。白癬に塗ると、かゆみと赤みという「体が菌と戦っているサイン」だけが消えます。使っている間は良くなったように見えるため塗り続けてしまい、その間に菌は範囲を広げます。かゆみが強い白癬ほど湿疹と間違われやすく、この経過をたどります。
困るのは、見た目そのものが変わってしまうことです。輪郭がぼやけ、点々とした盛り上がりが混ざり、教科書どおりの形を失います。輪郭や皮むけが目立たなくなり、どこから検体を採ればよいか分かりにくくなるため、診断までに時間がかかることがあります。抗真菌薬を含む市販薬を使用していた場合には、菌が一時的に減って顕微鏡で見つかりにくくなることもあります。
市販の塗り薬には、ステロイドが入ったもの、抗真菌薬(カビを抑える薬)が入ったもの、両方が入ったものがあります。かゆみ止めとして買った薬にステロイドが含まれていることもあり、パッケージだけで見分けるのは簡単ではありません。海外では、ステロイド・抗真菌薬・抗菌薬を配合した塗り薬の不適切な使用が、治りにくい白癬の拡大に関与した可能性が指摘されています。
とはいえ、すでに使った方が行き詰まるわけではありません。受診のときに、使った薬の名前と使った期間をお伝えください。それだけで検査の採り方と読み方を変えられます。塗り薬そのものの強さや使い方はステロイドの塗り薬のページにまとめています。
Q. 顔や体の白癬は、どこからうつるのですか?
股にできたものは、ほとんどが自分の足の水虫からうつったものです。体や顔にできたものは、ペットからの感染と、体が触れ合う競技での感染が目立ちます。
- 自分の足から:股部白癬の大半は、自分の足白癬が下着やタオル、手を介して股に移ったものです。年齢が上がるほど、足や爪の白癬から体へ広がる例も増えます
- ペットから:ネコやイヌが持つ菌が、抱いたときに触れる腕・首・顔などの露出した場所に感染します。ハムスターなどのげっ歯類やハリネズミが持つ菌もあります。ペットに脱毛やフケ、かさぶたがあれば、動物病院にもご相談ください
- 競技から:柔道やレスリングで2000年ごろから広がった菌があり、相撲やラグビーなど体が触れ合う競技でも見られます。相手やユニフォームと擦れる顔・首・体・手足に出やすく、家族にうつることもあります。症状が乏しいまま菌を持っている方がいるため、同じチームで似た発疹が続くときは、まとめて確認したほうが早く収まります
心当たりのある接触は、診察のときにお話しください。菌の見当がつくと、治療の選び方も変わります。
Q. 白癬かどうかは、どうやって確かめますか?
皮膚の表面を少しだけこすり取り、顕微鏡で菌そのものを見ます。痛みはほとんどなく、早ければ数分で菌の有無が分かります。
採った皮膚に薬液をなじませて角質を溶かし、その場で顕微鏡をのぞきます。菌糸(きんし:糸のように伸びた菌の体)が見えれば白癬と診断がつき、その日から治療を始められます。一方、菌が見えなかった場合でも、採取した場所や菌量、使用中の薬によっては見つからないことがあります。白癬がなお疑わしいときは、別の場所から再検査したり、必要に応じて培養検査などを検討します。見た目の似た病気が多いため、この検査を省くと診断を誤ります。
皮膚を採る場所にも要点があります。中心部は菌が少なくなっていることがあるため、菌が多いと考えられる輪の縁から採ります。ここを外すと、白癬なのに菌が見つからないという結果になりかねません。使用中の薬によって検査結果に影響することがあるため、受診当日は患部に新しく塗らず、薬の現物または写真をお持ちください。
菌の種類まで特定したいときには培養検査という方法があり、結果が出るまで通常2週間以上かかります。ペットからの感染や競技での感染が疑われる場面では、この情報が周囲への対策に役立ちます。
Q. 塗り薬だけで治りますか?
抗真菌薬の塗り薬が基本です。範囲が広い場合や、うぶ毛の根もとまで菌が入っている場合には、飲み薬を使います。
塗り薬は、見えている赤みより一回り広い範囲に塗ります。菌は輪の外側へ先回りして進んでいるためです。かゆみは早い段階で軽くなりますが、そこでやめると角質に残った菌から再燃します。いつまで塗るかは、皮疹の様子を見ながら診察で決めます。
飲み薬を選ぶのは、皮疹が広くて塗り残しが出る場合、再発を繰り返している場合、うぶ毛の中まで菌が入っている場合です。競技の場で広がるタイプの菌は毛に入り込みやすく、体にできた白癬でも飲み薬が勧められます。飲み薬は肝機能などを確認しながら使います。
1か月ほど続けても良くならないときは、薬を足すのではなく、診断そのものと菌の種類を見直します。近年は塗り薬や飲み薬が効きにくい白癬菌が国内でも見つかっており、薬の系統を替えることで解決する場合があります。ペットからうつった白癬では、治療を始めてから一時的に赤みが強くなることがありますが、想定される経過です。ただし、急速に広がる、痛む、膿が出るといった場合は、予定を待たずにご相談ください。
Q. どんなときに皮膚科を受診したほうがよいですか?
市販のステロイド外用薬を5〜6日使っても良くならない、やめるとぶり返す、輪の形に広がる。このどれかに当てはまるときは、塗り薬を足す前に検査を受けてください。
多くの市販ステロイド外用薬では、説明書に「5〜6日間使用しても症状がよくならない場合は使用を中止し、医師・薬剤師または登録販売者に相談する」と記載されています。効かないまま塗り続けるのは、この目安を超えた使い方になります。
次のような場合も、早めの受診をお勧めします。
- 顔にできた赤み(顔の白癬は形がはっきりせず、見分けが難しいため)
- 足の皮むけやかかとのガサつき、爪の濁りが同時にある
- 一緒に暮らすペットに脱毛やフケがある
- 体が触れ合う競技をしていて、同じチームに似た発疹が出ている
- 塗り薬を使ううちに、かえって範囲が広がってきた
どの科に相談するかという段階であれば、皮膚トラブルの相談先の選び方もお使いください。
よくあるご相談
以下は、複数の診療経験をもとに再構成した典型的な例です。
当院の皮膚科外来では、「頬の丸い赤みが1か月以上治らない。市販の塗り薬で軽くなるが、やめると広がる」というご相談をお受けします。まず、いつからか、市販薬は何をどのくらいの期間使ったか、ペットを飼っているか、体が触れ合う競技をしているかをうかがいます。赤みの縁がわずかに盛り上がっていたため、その縁から皮膚の表面を採って顕微鏡で確かめたところ、菌糸が見つかりました。ステロイドで炎症が抑えられて典型的な輪の形が崩れており、そのために湿疹に見えていたことをご説明し、ステロイドを中止して抗真菌薬の外用に切り替えました。ご家族とペットの皮膚も見ていただくようお願いし、経過を確認する日を決めてお帰りいただきました。
当院での診療
当院では、日本皮膚科学会 皮膚科専門医が、顔や体の赤みについて白癬かどうかを見きわめる診療を行っています。真菌の顕微鏡検査(白癬菌の直接鏡検)を院内で行っており、その場で菌の有無を確かめてから薬を選びます。ほくろやできものが混じるときはダーモスコピーで観察します。市販薬を使用中の方は検査の精度に影響することがあるため、受診の際にお薬の名前をお知らせください。皮膚科の診療日は火曜・木曜・第1/第3土曜です(皮膚科のご案内)。ご予約はWeb予約からどうぞ。
まとめ
- 白癬は足だけでなく顔や体、股などさまざまな場所にでき、顔や体は体部白癬、股は股部白癬と呼びます
- 典型は輪を描いて広がる強いかゆみのある赤みですが、顔ではこの形になりにくく、湿疹と間違われます
- 湿疹と思ってステロイドを塗ると、かゆみは軽くなっても菌は広がり、見た目が変わって診断が難しくなります
- 確かめ方は顕微鏡で菌を見る検査で、輪の縁から採るのが要点です。早ければ数分で菌の有無が分かります
- 市販薬で5〜6日たっても良くならない赤み、やめるとぶり返す赤みは、塗り薬を足す前に皮膚科でご相談ください
