「『遅延型フードアレルギー検査』を受けたら、卵や小麦、乳製品など、ふだん食べている物がいくつも陽性だった」というご相談を、外来でいただくことがあります。この検査で測る食べ物のIgG抗体(アイジージーこうたい)は、食べ慣れた食べ物に対して健康な人にもできる抗体で、食物アレルギーの診断には使えません。日本アレルギー学会も、食物アレルギーの原因食品を診断する方法としては推奨しないという見解を示しており、陽性の結果だけを理由に食べ物を除く必要はありません。
このページでは、なみきばしクリニックの内科担当医(日本内科学会 総合内科専門医・日本アレルギー学会 アレルギー専門医)が、この検査で何が分かり何が分からないのか、結果をもとに食べ物を除くと何が心配か、すでに結果を受け取った方がどうすればよいか、食べ物で不調があるときの調べ方をご説明します。診察のご希望はWeb予約からどうぞ。
『遅延型フードアレルギー検査』と言われている検査とは、どのような検査ですか?
血液を少量採り、数十から数百種類の食べ物それぞれに対するIgG抗体の量を測る検査です。IgG抗体のうち、IgG4抗体という種類だけを測るものもあります。結果は食べ物ごとに数値や段階で示され、値の高い食べ物を「体が反応している食べ物」として控えるよう勧められることがあります。
食べてすぐに症状が出る食物アレルギーとは別に、「食べてから時間がたって出る不調の原因が分かる」という触れ込みで、『遅延型アレルギー検査』とも呼ばれています。だるさや頭痛、肌荒れ、お腹の張りなど、原因のはっきりしない不調をきっかけに受ける方もいます。ただし、名前のとおりに、時間がたって出る食物アレルギーを見つけられる検査ではありません。
食物アレルギーが疑われるときに医療機関で行う血液検査は、主に特異的IgE抗体(とくいてきアイジーイーこうたい:特定の物質に反応する体の準備があるかを示す抗体)の検査で、IgG抗体の検査とは別のものです。同じ「食べ物に対する抗体の検査」でも、測っている抗体の種類と、結果の意味が違います。IgE抗体の検査の考え方はやみくもなアレルギー検査はしないほうが良いでご説明しています。
食べ物のIgG抗体は、なぜ陽性になるのですか?
IgG抗体は、食べた物のたんぱく質に体の免疫が出会ったときに作られる、ごく普通の抗体です。食物アレルギーのない健康な人にもあり、血液中の量は、その食べ物を食べている量に比例します。卵や小麦、乳製品など、毎日のように口にする食べ物ほど高く出やすいのはこのためです。
IgG4抗体は、その食べ物にくり返し触れてきたことを映す抗体で、アレルギー反応そのものを示すものではありません。むしろ、免疫が食べ物に慣れていく反応(免疫寛容)と関係していると考えられています。花粉症やダニのアレルギーに対する舌下免疫療法などのアレルゲン免疫療法でも、IgG4抗体が増えることが、効果の仕組みの一つと考えられています。「陽性」という言葉の印象とは反対に、IgG4抗体が高いことは、その食べ物が体に合わないことを示すものではありません。
IgG抗体の検査で、食物アレルギーが分からないのはなぜですか?
食物アレルギーを確かめる方法として最も確実なのは、医師の管理のもとで実際に食べて、症状が出るかを見る食物経口負荷試験(しょくもつけいこうふかしけん)です。実際の診療では、食べてから症状が出るまでの経過と、特異的IgE抗体や皮膚のテストの結果を合わせて診断することが多く、すべての方に負荷試験を行うわけではありません。食べ物のIgG抗体の値は、この負荷試験の結果と一致しません。IgG抗体が陽性でも、食べて何も起きない人がたくさんいます。反対に、食べるとすぐにじんましんや息苦しさが出る食物アレルギーの方でも、その食べ物のIgG抗体が高いとは限りません。
食べ物に対するIgG4抗体が、じんましんなどの症状を引き起こすという確かな証拠はなく、この検査で症状の原因を当てられるかを、比較の対象を置いて確かめた研究もありません。
こうした理由から、日本アレルギー学会と日本小児アレルギー学会は、食べ物のIgG抗体検査を、食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないという見解を出しています。欧州・米国・カナダのアレルギーの学会も同じ立場で、欧州の学会は、食べ物に関係する不調があっても、この検査は行うべきではないとしています。
結果をもとに食べ物を除くと、どんな心配がありますか?
検査の結果だけを根拠に食べ物を除くと、次のような心配があります。
- 食事が偏り、暮らしが窮屈になる:陽性は、卵・小麦・乳製品など、ふだんよく食べる物に多く出ます。いくつもまとめて除くと栄養が偏りやすくなり(たとえば乳製品をやめるとカルシウムが不足しやすくなります)、外食や買い物のたびに気をつかうようになって、生活の質が下がります。日本アレルギー学会も、原因ではない食べ物まで除去することになり、多品目に及ぶと健康被害を招くおそれがあると注意を呼びかけています。
- 不調の本当の原因を探すのが後回しになる:不調を食べ物のせいだと考えて除去を続けるうちに、過敏性腸症候群や、ほかの病気の診断と治療が遅れることがあります。
- 本当の食物アレルギーを「大丈夫」と誤解する:IgG抗体が低かった食べ物でも、食べてすぐに症状が出るタイプの食物アレルギーがないとは言えません。結果を見て、以前に症状が出た食べ物を試すのは危険です。
食べてから時間がたって出る食物アレルギーはないのですか?
あります。ただし、IgG抗体の検査で見つけるものではありません。
食物アレルギーの多くは、食べてから2時間以内に、じんましんや唇の腫れ、咳、腹痛などが出ます。その例外として、納豆のアレルギーや、牛肉・豚肉などの哺乳類の肉で起こるα-Gal(アルファガル)症候群では、食べてから数時間、納豆ではときに半日ほどたってから、じんましんや息苦しさが出ることがあります。魚に寄生するアニサキスへのアレルギーでも、食べてから時間をおいて症状が出ることがあります(アニサキスと魚のアレルギー)。これらは、すぐに出るアレルギーと同じIgE抗体が関わるアレルギーですが、原因の物質が体に吸収されるまでに時間がかかるなどの理由で、症状が遅れて出ます。このように、食べてから2時間以上たって起こるアナフィラキシーは、遅発型(遅発性)アナフィラキシーと呼ばれます。診断は症状の経過を中心に、必要に応じてIgE抗体の検査や皮膚のテストを組み合わせて行います。食後に運動などが重なったときにだけ症状が出る食物依存性運動誘発アナフィラキシーもあります。
じんましんを伴わずに、数時間後に嘔吐・腹痛・下痢が出る、IgE抗体を介さないタイプの消化管のアレルギーもあります。こちらは特異的IgE抗体の検査では診断できず、症状の経過などから判断します。この診断にも、IgG抗体の検査は使いません。
時間がたって出るアレルギーを疑うときに手がかりになるのは、「何を、どのくらい食べて、何時間後に、どんな症状が出たか」という記録です。食物アレルギーのタイプは大人の食物アレルギーにまとめています。
すでに検査を受けて、食べ物を控えている場合はどうすればよいですか?
IgG抗体の結果だけを理由に、食べ物を控え続ける必要はありません。検査の前からふだん食べていて、食べてすぐに症状が出たことのない食べ物は、結果が陽性でも避ける必要はないと考えられます。
次のような場合は、自己判断で食べ始めずにご相談ください。
- 以前に、その食べ物を食べてじんましん・息苦しさ・唇や喉の腫れなどが出たことがある
- 長いあいだ避けていて、食べ始めるのが不安
- いくつもの食べ物を避けていて、どれから戻せばよいか分からない
- 食べ物を控えても、不調が続いている
受診の際は、検査結果の用紙と、不調が出た日に食べた物のメモをお持ちいただくと、経過を整理しやすくなります。
食べ物で不調があるとき、当院ではどのように調べますか?
なみきばしクリニックの内科外来では、日本アレルギー学会 アレルギー専門医である内科担当医が診療しています。食べ物の不調のご相談では、検査の前に、何を食べて、どのくらいたって、どんな症状が出たかを詳しく伺い、アレルギーが疑われる経過かどうかを判断します。
- 食物アレルギーが疑われる場合:疑わしい食べ物に絞って院内で採血し、特異的IgE抗体を調べます。果物やエビは、食べ物そのものを使った皮膚のテスト(プリックテスト)も院内で行えます。結果と経過を合わせて、何をどこまで避けるかをご説明します。実際に食べて確かめる負荷試験が必要なときは、行える医療機関へご紹介します。
- お腹の不調が中心の場合:過敏性腸症候群など、アレルギー以外の原因も含めて内科で診療します。便に血が混じる、意図せず体重が減っているなどの症状があれば、内視鏡検査を行える医療機関へご紹介します。
- だるさや頭痛などが続く場合:貧血や甲状腺の働きなど、食べ物以外の原因も含めて、必要な検査を考えます。肌荒れが続く場合は、皮膚科(日本皮膚科学会 皮膚科専門医)にもご相談いただけます。
当院では、食べ物のIgG抗体の検査は行っていません。すでに受けた検査の結果をお持ちの方も、結果の受け止め方や、控えている食べ物をどう戻していくかをご相談いただけます。アレルギー科の診療内容はアレルギー科のご案内にまとめています。
よくあるご質問
Q1. IgG4抗体だけを測る検査なら、意味がありますか? 意味は変わりません。食べ物のIgG4抗体は、その食べ物をくり返し食べてきたことを映し、免疫の慣れと関係すると考えられている抗体で、食物アレルギーや、食べ物による不調の診断には使えません。
Q2. 数値が高い食べ物ほど、体に合わないのですか? いいえ。IgG抗体の値は、その食べ物を食べている量を反映しやすく、よく食べる物ほど高く出る傾向があります。数値の高さは、症状の出やすさや重さを示すものではありません。
Q3. お腹の不調(過敏性腸症候群)が良くなったという研究を見ました。 過敏性腸症候群の方で、IgG検査の結果に沿って食べ物を除いたほうが、見せかけの除去食より腹痛が軽くなったという海外の研究はあります。ただし、使われたのは18種類の食べ物に絞った過敏性腸症候群専用の検査で、一般に販売されている『遅延型フードアレルギー検査』の有用性を示したものではありません。研究者自身も、より大きな研究での確認が必要としています。食物アレルギーの診断に使えないことも変わりません。お腹の不調の調べ方はパンや麺でお腹の調子が悪いでもご説明しています。
Q4. 保険で受けられますか?当院で受けられますか? 食べ物のIgG抗体の検査は保険診療で認められた検査ではなく、自費で行われています。当院では行っていません。食べ物によるアレルギーが疑われる場合は、保険診療で、疑わしい食べ物に絞って特異的IgE抗体の検査を行います。
Q5. 「遅延型アレルギー」は医学の言葉ではないのですか? 「遅延型アレルギー」という言葉は医学にもありますが、意味が違います。医学でいう遅延型アレルギー(IV型アレルギー:抗体ではなく、免疫の細胞が中心になって起こる反応)の代表は、金属や化粧品の成分、ゴム製品に含まれる添加物などが皮膚に触れて、時間をおいて湿疹が出るアレルギー性接触皮膚炎(かぶれ)で、原因はパッチテストで調べます(手湿疹の原因と治し方でもご説明しています)。食べ物のIgG抗体を測る検査は、この意味での遅延型アレルギーを調べる検査ではありません。食べ物で時間がたってから出るアレルギーについては、上の「食べてから時間がたって出る食物アレルギーはないのですか?」をご覧ください。
参考文献
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- 日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会. 血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起. 2014年11月19日
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